抱樸館北九州開所式

14日、朝から北九州市八幡東区東鉄町に行ってきました。路上生活経験者の方々の入居施設である「抱樸館北九州」がついにオープンし、その開所式に参列するためです。
抱樸館北九州は、NPO法人北九州ホームレス支援機構が運営しています。


オープンした抱樸館北九州の外観

開所式に参列するため、やってきました

抱樸館北九州の入口で



NPO法人北九州ホームレス支援機構は、「隣人愛の実践者」こと奥田知志さんが理事長を務めておられます。ブログ「茂木健一郎&奥田知志講演会」に書いたように、奥田理事長とは8日にお会いしました。ブログ「書評スピーチ」に書いたように、わたしも講演会の壇上でお話させていただきました。


開所式のようす



さて抱樸館北九州は、「共に生きるための新しい支援拠点」として位置づけられています。
同館のパンフレットの冒頭には、以下のように書かれています。
「私たちは長年の活動で、『無縁』すなわちホームレス状態が人間をどれだけ苦しめるのかを見てきました。だからこそ他者の縁による絆(きずな)は大きなテーマでした。『きずな』という言葉には『きず』が含まれています。人と人とのつながりは、時に傷つけあい、わずらわしく思うこともあります。しかし、その『きず』をも内包してこそ、『あなた』と『わたし』の関係は『絆』と呼べるものになるのではないでしょうか。
抱樸館北九州は、『絆』を結ぶホームです。そして互いの違いを認めあい、赦し合い、助け合う、包摂型社会のモデルとなることを目指します」


奥田理事長による挨拶



開所式の冒頭では、奥田理事長からの挨拶がありました。
奥田理事長は、「わたしは今、感激しています。心から感謝しています」と正直な気持ちを語られました。25年も前から困窮者支援に取り組んでおられ、このたびの抱樸館北九州の開所に当たって、市民の方々から6000万円以上の寄付が集まったそうです。奥田理事長は「抱樸館が抱樸館であり続けることが大事です。今日、施設が与えられました。しかし、いつまでも抱樸館の精神を忘れずにいたいと思います」と述べました。
この言葉には、わたしも感ずるところがありました。わたしも、さまざまな施設を作り、その竣工式で挨拶する機会も多いです。でも、大切なのはハードではなくハートであり、わが社は松柏園の精神、紫雲閣の精神、隣人館の精神などを忘れてはならないと思いました。


「抱樸館由来」を朗読する奥田理事長



それから奥田理事長は、「抱樸館由来」という文章を以下のように朗読されました。
「みんなが抱かれていた。眠っているに過ぎなかった。泣いていただけだった。
これといった特技もなく力もなかった。重みのままに身を委ね、ただ抱かれていた。
それでよかった。人は、そうしてはじまったのだ。
ここは再びはじまる場所。傷つき、疲れた人々が今一度抱かれる場所――抱樸館。
人生の旅の終わり。人は同じところへ戻ってくる。抱かれる場所へ。
人は、最期に誰かに抱かれて逝かねばなるまい。
ここは終焉の地。人がはじめにもどる地――抱樸館。
『素を見し樸を抱き』――老子の言葉。
『樸』は荒木。すなわち原木の意。
『抱樸』とは、原木・荒木を抱きとめること。
抱樸館は原木を抱き合う人々の家。
山から伐り出された原木は不格好で、そのままではとても使えそうにない。
だが荒木が捨て置かれず抱かれる時、希望の光は再び宿る。
抱かれた原木・樸は、やがて柱となり、梁となり、家具となり、人の住処となる。杖となり、楯となり、道具となって誰かの助けとなる。芸術品になり、楽器となって人をなごませる。
原木・樸はそんな可能性を備えている。まだ見ぬ事実を見る者は、今日、樸を頂き続ける。抱かれた樸が明日の自分を夢みる。しかし樸は、荒木である故に少々持ちにくく扱い辛くもある。時にはささくれ立ち、棘とげしい。
そんな樸を抱く者たちは、棘に傷つき血を流す。だが傷を負っても抱いてくれる人が私たちには必要なのだ。樸のために誰かが血を流す時、樸はいやされる。その時、樸は新しい可能性を体現する者となる。私のために傷つき血を流してくれるあなたは、私のホームだ。
樸を抱く――『抱樸』こそが、今日の世界が失いつつある『ホーム』を創ることとなる。
ホームを失ったあらゆる人々に今呼びかける。
『ここにホームがある。ここに抱樸館がある』」(「抱樸館由来」より)



ブログ「書評スピーチ」に書いたように、わたしは茂木健一郎氏が「現代のソクラテス」ならば、奥田理事長は「現代のイエス」の1人であると思っています。しかし、イエスの言葉ではなく、東洋の聖人である老子の言葉に由来することがとても興味深く感じました。いつか、奥田理事長と老子について語り合ってみたいです。それにしても、さすがに牧師だけあって、朗読する奥田理事長の声はよく通り、聴く者の魂を震わせるようでした。


古都審議官の来賓挨拶

芳賀理事長の来賓挨拶



その後、来賓挨拶として、厚生労働省の古都賢一審議官、北九州市保健福祉局の垣迫裕俊局長、社会福祉法人年長者の里の芳賀晟壽理事長、社会福祉法人グリーンコープの行岡良治理事長らが挨拶をされました。その中に、「抱樸館の近隣に建設反対の旗がたくさん掲げられているのが残念です。こんな住宅街の真ん中でなく、もっと他にふさわしい候補地はなかったのか。どうか、近隣の方々から『抱樸館が出来たことによって街が良くなった』と言われるように頑張っていただきたい」という発言をされた方がいました。
その方の言いたいことはよくわかるのですが、わたしは違う考えです。やはり、こういった施設は住宅街の中にあることにこそ意味があり、このような困窮者の施設を受け入れることによって街そのものが活性化される部分があると思います。わたしの言いたいことは、ブログ『社員みんながやさしくなった』で紹介した本の内容とほぼ同じですが、このような「助け合い」施設が自分の街にあることを住民の方々はぜひ誇りに思っていただきたいです。
そして、ブログ「助け合い日本一の街へ」に書いたように、北九州市そのものが日本にとっての「安全基地」になれば素敵ですね。わたしは、心からそう思います。


「抱樸」の書を説明する書家の栗原さん



その後、記念品受贈・感謝状贈呈が行われました。特に印象に残ったのは、書道家の栗原光峰さんが自身の書「抱樸」を贈呈された場面で、栗原さんは書の説明もされました。
見事な「抱樸」の書は抱樸館北九州の玄関に飾られています。
栗原さんはちょうど、わたしの隣の席に座られたのですが、「先日は、素晴らしいお話をありがとうございました」と言われました。どうやら、わたしの書評スピーチを聴かれたようです。


小野館長によるスタッフ紹介と挨拶



記念品受贈・感謝状贈呈が済むと、抱樸館北九州の小野晃一郎館長が登壇して、スタッフの方々を1人づつ紹介するとともに、「抱樸館北九州が目指すもの」という話をされました。同館は全部で30室ですが、そのうち25室は高齢者の方々を中心とした「終の棲家」で、残りの5室は自立支援住宅として使用されるそうです。
抱樸館北九州は「多くの人が訪れる」「笑顔の絶えない」場所を目指しており、そのために新しい2つの試みが行われます。
1つは、レストランを一般開放して、さまざまな人を受け入れること。
もう1つは、なんと「互助会」を作ることだそうです。
小野館長によれば、お互いがお互いを支え合う仕組みをコーディネイトして、抱樸館の中に「誰かが誰かに会える」ための互助会を作りたいというのです。


「やっと建ちました!」と述べる奥田理事長



わたしは、小野館長の話を聴きながら、まさに互助会の原点を見たような思いがして、感銘を受けました。あえて「互助会」という言葉を使ったところには、わたしに対する奥田理事長のメッセージやエールや友情を感じもしました。わたしたちは同い年なのです。
その奥田理事長は開所式の最後にもう一度登壇されて、「みなさん、今日は本当にありがとうございました」と言った後、声を詰まらせ目に涙を浮かべながら「やっと建ちました!」と言われました。それを見たわたしの胸も熱くなりました。


開所式の後は施設見学しました

部屋はシンプルです

陽の当たるテラスに立つ奥田理事長と山崎先生

「抱樸」の書の前で、書家の栗原光峰さんと


開所式が終わると、施設見学をさせていただきました。
部屋はシンプルですが、オープンテラスなどもあって気持ちの良い空間です。
本当はその後、館内のレストランにおいて祝賀会が開催され、わたしも祝辞を述べるように頼まれていたのですが、午後から会社の用事があったので辞退させていただきました。苦節25年にしてようやく実現した抱樸館北九州の祝辞は、新参者のわたしなどより、もっと以前からホームレス支援機構を支えてこられた方がすべきであると思います。


東山紫雲閣の前を通って帰りました



抱樸館北九州を後にしたわたしは、すぐ近くにある東山紫雲閣の前を通って、多くの結婚式で賑わう小倉の松柏園ホテルへと向かいました。
今日は、抱樸館北九州でも、松柏園ホテルでも、たくさんの「おめでとうございます」と「ありがとうございます」の挨拶が交されたことでしょう。ハートフル・ソサエティとは、心のサーブとしての「おめでとう」と心のレシーブとしての「ありがとう」が活発に行き交う社会です。
わたしは、「おめでとう」と「ありがとう」の言葉が大好きです。



奥田理事長、北九州ホームレス支援機構のみなさん、本日は誠におめでとうございました。
これからも、どんどん抱樸館を各地に作って下さい。
わたしたちも、どんどん隣人館を各地に作ります。
抱樸館と隣人館の両施設で、「無縁社会」も「老人漂流社会」も乗り越えましょう。
抱樸館北九州の前途に大いなる幸あれ!



毎日新聞」2013年1月11日朝刊



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2013年9月15日 佐久間庸和