三菱グループ講演


皐月晦日の5月30日、わたしは講演を行いました。三菱グループ企業および取引企業の会である「菱友会」さんに呼ばれ、同会の総会終了後に講演させていただいたのです。場所は黒崎のホテルクラウンパレス北九州で、演題は「よくわかる!ドラッカー思考」でした。


講演会のようす



拙著『最短で一流のビジネスマンになる!ドラッカー思考』(フォレスト出版)の内容に沿って、「自己実現」「マネジメント」「マーケティング」「イノベーション」「リーダーシップ」「未来創造」という6つのドラッカー思考を紹介し、自分の考えも述べさせていただきました。
特に、今回は企業の経営者や管理職の方が多いことから「リーダーシップ」に力を入れて話しました。人を導く者を日本語で「指導者」、英語で「リーダー」といいます。
リーダーに求められるのがリーダーシップだと一般には思われているでしょう。
しかし、決して誤解してはなりません。リーダーシップはいわゆる管理職の人間だけに必要なのではなく、会社なら社員全員が持つべきものです。


ドラッカー思考」について語りました



リーダーシップというと、いわゆる英雄たちが身につけていたような人間的魅力のことだと思われがちです。そして、そのような魅力は生まれつき人に備わっている資質であると思うかもしれません。しかし、ドラッカーは「現代の経営」で述べています。
「リーダーシップとは、人を惹きつける資質ではない。そのようなものは煽動的資質にすぎない。リーダーシップとは、仲間をつくり人に影響を与えることでもない。そのようなものはセールスマンシップにすぎない。」(上田惇生訳)
この言葉だけでは、リーダーシップが重要でないと感じられるかもしれませんが、もちろんリーダーシップはとても重要です。『未来企業』で、ドラッカーはこうもいっています。
「リーダーシップは重要である。だがそれは、いわゆるリーダー的資質とは関係ない。カリスマ性とはさらに関係ない。神秘的なものではない。平凡で退屈なものである。」(同訳)


リーダーシップについて語りました



リーダーシップとは、人間の生き方そのものに関わっています。組織の階層構造は人間がつくったものです。それは、時としてリーダーシップのあり方を型にはめ、人が生まれながらに持っている貴重な才能を押し殺してしまうことがあります。しかし、そんな状況の下でも、リーダーシップを発揮することは誰にでもできるのです。
では、どうすれば自分の可能性を引き出し、伸ばすことができるのでしょうか?
それは、こういう問いにつながります。
「あなたの仕事は、人生を注ぎ込むに値するものだろうか?」
このような大事な問題を、どう考えるか。これは人間としての根本的な問いであり、その人の人生そのものに関わる問いでもあります。



誰もが、人の役に立ちたいと心の底で思っています。自分の存在が他人のやる気をくじいているのか、それとも逆に活気づけているのかということに、無関心でよいはずはありません。リーダーシップの本質とは、意義あるビジネスを生み出すこと、さらに、意義ある人生を生み出すことにあります。過去と他人は変えられませんが、未来と自分は変えられます。自分の一番よいところを引き出すこと、あなたの「強み」を生かすこと、あなたの周囲に人々がのびのびと成長できるような環境をつくってあげること、これが真のリーダーシップです。


チェンジ・リーダーについて



ドラッカーは、リーダーシップに関連して「チェンジ・リーダー」という言葉を好みました。
チェンジ・リーダーとは、時代の変化に対応するのみならず、自らが時代に変化を起こすリーダーのことです。ドラッカーは、「変化」についてのきわめて示唆に富んだ言葉を遺作である『ネクスト・ソサエティ』に次のように残しています。
「変化を観察しなければならない。その変化が機会かどうかを考えなければならない。本物の変化か一時の流行かを考えなければならない。見分け方は簡単である。本物の変化とは人が行なうことであり、一時の流行とは人が話すことである。」(上田惇生訳)



チェンジ・リーダーとは、もちろん本物の変化に関わるものです。
アメリカでは、若いオバマ大統領が誕生しましたが、選挙活動中のスローガンは「チェンジ」でした。まさに、「100年に1度の波」と呼ばれる深刻な不況の渦中にあって、アメリカという巨大国家そのものが変化しなくてはならなかったのです。変化が求められるのは、アメリカという国家だけではありません。アメリカで発達した強欲資本主義、キリスト教イスラム教に代表される宗教衝突、黒人に代表されるマイノリティを差別する格差社会オバマ大統領は、それらすべてに「チェンジ」をもたらすことをめざしたのです。
時代は常に変化します。「マネジメント」を成り立たせている二大機能として「マーケティング」と「イノベーション」があります。マーケティングとは「時代の変化を読むこと」、そしてイノベーションとは「時代の変化を起こすこと」です。もちろん、どちらも重要です。


勝海舟坂本龍馬について述べました



その意味で、かの勝海舟は、マーケティングの達人でした。
現代の日本は幕末以来の時代の激変期です。幕末の海舟は、時代の変化を的確に読める人間でした。若い頃から剣術を鍛えるとともに蘭学にも親しみ、長崎海軍操練所で航海術と砲術を学びました。そして、これからの時代にはすみやかに諸外国と交流してその文化を吸収し、日本を強い国に育てるべきと考えていました。
ペリーが来航した際、幕府に対して開国すべしという意見書を提出したりしたので、攘夷派から命を狙われることになりました。実際、坂本龍馬が海舟を暗殺しに来ましたが、逆に説き伏せて弟子にしてしまいました。その後、咸臨丸の艦長として使節団を成功に導いたことで幕府内でも強い発言権を持つようになり、幕府の軍艦奉行に任命され神戸海軍操練所の建設に乗り出しました。徳川慶喜鳥羽・伏見の戦いで敗れて江戸へ戻ってからは、旧幕府連立政権の陸軍総裁となり、新政府軍の江戸城攻撃の前日に西郷隆盛と会談を行い、江戸城無血開城に導いたとされます。



勝海舟マーケティングの達人なら、坂本龍馬イノベーションの達人でした。
海舟の弟子となった龍馬も、時代の変化には非常に敏感でした。彼が友人と行き会うたびに、長い刀、短い刀、ピストル、万国公法の法律書というように、持ち物を変えていたというエピソードは有名です。古い武器から新しい武器、新しい武器から法律あるいは民主主義へと、変化の象徴を求めながら、竜馬自身の自己変革を告げました。
「彼は昨日の彼ならず」という言葉がある。今日の龍馬は昨日の龍馬ではなかったのです。彼にとっては、明日になれば今日は即昨日に変わりました。つまり、龍馬は「日々新たなり」の言葉通り、自己を果てしなく変革していったのです。自己変革とは、脱皮に告ぐ脱皮の行為です。彼は昨日の自己に何の未練も持たなかったし、捨てても惜しいとは思いませんでした。この連続性のある脱皮精神こそが龍馬を「龍馬」たらしめたのです。
坂本龍馬は2000年前の中国の思想家が口々に唱えた「社会を変革する者は、まず自己の変革者でなければならない」という言葉を、そのまま実践したのです。自己の変革者こそが、イノベーションを起こせる存在なのです。



ドラッカーは、『未来企業』の中で真のリーダーについて語っています。
「真のリーダーは、人間のエネルギーとビジョンを創造することが自らの役割であることを知っている。」(上田惇生訳)
坂本龍馬には、人間のエネルギーとビジョンがありました。
わたしは、かつて『龍馬とカエサル〜ハートフル・リーダーシップの研究』(三五館)という本を書きましたが、西洋社会において最高のリーダーとされたユリウス・カエサルと同様に、志半ばで倒れたにせよ、日本における理想のリーダーは龍馬ではないかと思います。彼には、まず真摯さがあり、信頼があり、責任があり、コミュニケーション力があり、多くの後輩や部下を育てたコーチング力がありました。何よりも、ドラッカーがいうような人間のエネルギーとビジョンを創造した人物であったと思います。


ドラッカーは、岩崎弥太郎をどう見たか?



ドラッカーは、近代国家としての日本を創った人物として福沢諭吉渋沢栄一岩崎弥太郎の3人をあげています。ドラッカーはまた、日本の明治維新に大きな関心を抱いていました。
世界史上で最も成功した「社会的イノベーション」であると高く評価しています。
この社会的イノベーションがあったからこそ、「実務家」の福沢、「倫理家」の渋沢、そして「起業家」の岩崎は新しい日本をデザインすることができたのです。
その明治維新を呼び込んだ張本人こそ龍馬でした。



2010年のNHK大河ドラマは、岩崎弥太郎の眼から見た龍馬の物語である「龍馬伝」でした。いつまでも多くの日本人に愛されている坂本龍馬ドラッカーなら、龍馬のことをどう語ったか。そして、龍馬の影響を受けながらも、日本最大の三菱グループを創設した岩崎弥太郎をどう語ったか。わたしは、とても興味があります。


懇親会に参加させていただきました

三菱グループの皆様と乾杯!


三菱グループという日本が世界に誇る企業集団は、世界史上の奇跡である「社会的イノベーション」としての明治維新の延長線上にあると思います。
わたしは、最後に「その三菱グループの未来を担う皆様の前で講演をさせていただき、誠に光栄です。ご清聴、ありがとうございました」と述べて、講演を終了しました。会場から盛大な拍手を頂戴して嬉しかったです。その後、懇親会にも参加させていただき、三菱グループの方々と情報交換および親睦を図ることができました。


小川裕司氏と


西日本海代表取締役の小川裕司氏ともお会いしました。小川氏は日本郵船のご出身で、ブログ「観光振興大会」で紹介した徳川恒孝氏と同僚だったそうです。
現在は、写真家としても活躍されており、一連の「工場萌え」写真でも有名な方です。
初めてYouTubeで「工場萌え」の映像を見たとき、その美しさに感銘を受けました。
また、東亜大学客員教授でもあります。小川氏とお会いできたことは大きな喜びでした。


懇親会のようす



他にも多くの三菱グループの方々と交流が図れ、非常に有意義で楽しい夜となりました。
関係者の方々に心より御礼を申し上げます。
また、皆様にお会いできる日を楽しみにしております。

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。
*当ブログのすべての文章および写真の無断掲載を禁じます。
*当ブログにリンクを貼る場合は必ず事前承認をお願いいたします。
*当ブログ管理者へのご連絡、記事のご意見、ご感想などは、
公式サイト「ハートフルムーン」のメール機能をお使い下さい。



2013年5月31日 佐久間庸和