老福


わたしは、これまで多くの言葉を世に送り出してきました。
この際もう一度おさらいして、その意味を定義したいと思います。
今回は、「老福」という言葉を取り上げることにします。



日本人の自殺者が1年間で3万人を超えています。
そのネガティブ・トレンドを食い止めるキーワードこそ、「老福」です。
自殺者の多くは高齢者ですが、わたしたちは何よりもまず、「人は老いるほど豊かになる」ということを知らなければなりません。



現代の日本は、工業社会の名残りで「老い」を嫌う「嫌老社会」です。
でも、かつての古代エジプトや古代中国や江戸などは「老い」を好む「好老社会」でした。
前代未聞の超高齢化社会を迎えるわたしたちに今、もっとも必要なのは「老い」に価値を置く好老社会の思想であることは言うまでもありません。
そして、それは具体的な政策として実現されなければなりません。



世界に先駆けて超高齢化社会に突入する現代の日本こそ、世界のどこよりも好老社会であることが求められます。日本が嫌老社会で老人を嫌っていたら、何千万人もいる高齢者がそのまま不幸な人々になってしまい、日本はそのまま世界一不幸な国になります。逆に好老社会になれば、世界一幸福な国になれるのです。まさに「天国か地獄か」であり、私たちは天国の道、すなわち人間が老いるほど幸福になるという思想を待たなければならないのです。



日本の神道は、「老い」というものを神に近づく状態としてとらえています。神への最短距離にいる人間のことを「翁」と呼びます。また七歳以下の子どもは「童」と呼ばれ、神の子とされます。つまり、人生の両端にたる高齢者と子どもが神に近く、それゆえに神に近づく「老い」は価値を持っているのです。だから、高齢者はいつでも尊敬される存在であると言えます。



アイヌの人々は、高齢者の言うことがだんだんとわかりにくくなっても、老人ぼけとか痴呆症などとは決して言いません。高齢者が神の世界に近づいていくので、「神言葉」を話すようになり、そのために一般の人間にはわからなくなるのだと考えるそうです。
これほど、「老い」をめでたい祝いととらえるポジティブな考え方があるでしょうか。
人は老いるほど、神に近づいていく、つまり幸福になれるのです。
なお、この「老福」という言葉は、『老福論』(成甲書房)で初めて提唱しました。


老福論―人は老いるほど豊かになる

老福論―人は老いるほど豊かになる

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2013年10月8日 佐久間庸和