宮沢賢治(2)


ほんとうのほんとうの幸福をさがすぞ




言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、日本の童話作家・詩人である宮沢賢治の言葉です。
彼の代表作の1つとして有名な『銀河鉄道の夜』では、主人公のジョバンニが銀河鉄道から降りて、「ほんとうのほんとうの幸福をさがすぞ」と言います。


銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜


銀河鉄道の夜』は、臨死体験の物語であるとされています。
ジョバンニの乗り込んだ列車は、死者たちの乗る列車でした。
死者たちの降りる駅はそれぞれ違っていますが、ほとんど全員が降りてしまっても、ジョバンニの友人であるカムパネルラだけは降りません。彼は、最後の駅で1人だけ降りていきます。なぜなら、カムパネルラは自己犠牲によって死んだからです。同級生で、いじめっ子のザネリが川に落ち、それを救うためにカムパネルラは川に飛び込みました。ザネリは助かりましたが、カムパネルラは命が尽きて死んでしまいました。そのためにカムパネルラは死後、高いところに昇ることになるのです。



カムパネルラが下車した後、たった1人で車内に取り残されたジョバンニは、ブルカニロ博士という不思議な人物に出会います。そして彼と話しているうちに、ジョバンニは自分の生き方の根幹となるものを見出します。そして、ジョバンニは目を覚まします。
そこは、もとの原っぱでした。彼の顔はほてり、頬には涙が流れています。
でも、すぐ我に返り、あわてて起き上がって牛乳屋へと走ります。
今度はなじみのおじさんが出てきて、まだ熱い牛乳を手渡してくれます。



家路を急いで街に入ると、星祭りの騒ぎはやんでおり、街かどや店の前に女たちが7、8人ぐらいずつ集まって、橋の方を見ながら何かひそひそ話をしています。
橋の上もいろいろな明かりでいっぱいです。そこで初めてジョバンニは、ついさっきまで自分と一緒に汽車に乗っていたカムパネルラの死を知るのです。
このとき、ジョバンニはすべてを悟ります。



ブルカニロ博士と話をして汽車から降りる時、ジョバンニは次のように言いました。
「ああマジェランの星雲だ。さあもうきっと僕は僕のために、僕のおっかさんのために、カムパネルラのために、みんなのために、ほんとうのほんとうの幸福をさがすぞ。」
この言葉こそ、臨死体験によってジョバンニが学んだことでした。
博士は、ジョバンニとの別れ際にこういいます。
「さあ、切符をしっかり持っておいで。おまえはもう夢の鉄道の中でなしに、ほんとうの世界の火やはげしい波の中を大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない。天の川のなかでたった一つのほんとうのその切符を決しておまえはなくしてはいけない。」



そして、博士はジョバンニに向かって、次のような謎めいた言葉を吐くのです。
「ありがとう。私はたいへんいい実験をした。私はこんなしずかな場所で、遠くから私の考えを人に伝える実験をしたいとさっき考えていた。おまえの言ったことばはみんな私の手帳にとってある。さあ帰っておやすみ。おまえは夢の中で決心したとおりまっすぐに進んで行くがいい。そしてこれからなんでもいつでも私のとこへ相談においでなさい。」
「僕きっとまっすぐに進みます。きっとほんとうの幸福を求めます。」
ジョバンニは力強く答えます。そして博士は切符をジョバンニのポケットに入れて消えてしまい、ジョバンニは目を覚ますのです。



以上のように、『銀河鉄道の夜』が臨死体験の物語であることは明らかだと思います。しかもこの幻想的な物語は、死が霊的な宇宙旅行であり、死者の魂は宇宙へ帰ってゆくという真実をうまく表現しています。さらに何よりも重要なことは、ジョバンニが死後の世界からの帰還後、「ほんとうの幸福」の追求を決意する点です。『青い鳥』のチルチルとミチルも、夢から覚めた後、つまり四次元のアストラル界から三次元の世界に戻った後、自分たちの飼っている鳥が青い色に変わっているのを見ます。そして、「幸福は日常生活の中にこそさがすべきだ」ということに気づき、本当の幸福を求めはじめるのです。



チルチル、ミチルやジョバンニは、蘇生後、幸福を求めて二度目の生を精一杯に生きる数多くの臨死体験者そのものの姿です。
彼らはこの世に戻って来たとき、大いなる普遍思想に目覚め、その瞬間から幸福、愛、平和といったものを追い求めずにはいられなくなるということが、たくさん報告されています。
なお、今回の宮沢賢治の名言は『涙は世界で一番小さな海』(三五館)にも登場します。


涙は世界で一番小さな海―「幸福」と「死」を考える、大人の童話の読み方

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2013年10月7日 佐久間庸和