ラッセル(1)


幸福になる一番簡単な方法は、
他人の幸せを願うことです




言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、数学者にして哲学者のバートランド・ラッセルの言葉です。
ラッセルには、岩波文庫から出ている『幸福論』という名著があります。
内容を一言で要約すると、「自分がねたみ深い性質をもっていると自覚するだけで、人はかなり幸福になれる」というものです。そして、ラッセルは「幸福になる一番簡単な方法は、他人の幸せを願うことです」と喝破しました。


ラッセル幸福論 (岩波文庫)

ラッセル幸福論 (岩波文庫)


わたしは『法則の法則』(三五館)において、「呪い」と「祈り」について書きました。
昔から「人を呪わば穴二つ」と「人を祈らば穴二つ」という似た諺があります。
つまり、「呪い」も「祈り」もそのベクトルが違うだけで、エネルギーの種類は同じなのです。
そして、「呪い」は他人への「ねたみ」という形でもっとも発動されやすいことに注意しなければなりません。ラッセルは、人間の幸福が「ねたみ」と密接に関係していることを見抜き、真の幸福は他人の幸福を願うことにあることを訴えました。



いうまでもなく、ラッセルは20世紀を代表する知の巨人です。
アインシュタインが20世紀の理科系の知の代表なら、ラッセルは文科系の代表とされるほどの大物です。その天才ぶりは多面的な活躍によく表れています。
まず、ラッセルは数学の天才です。ホワイトヘッドとともに『数学原理』という大著を著わしました。これは、数学と論理学を結合した、とにかく物凄い本です。
それから、ラッセルは哲学の天才です。『西洋哲学史』というこれまた大著をまとめ、なんとノーベル文学賞を受賞しています。数学と哲学史における史上最高の名著が同一人物によって書かれたというのは本当に信じられないことですが、正真正銘の事実です。おそらくラッセルは、多角的に「法則」を追求する天才だったのでしょう。



ラッセルは、「法則」のみならず「幸福」も追求しました。
彼は、つねに人類の幸福というものを視野に入れ、第一次世界大戦の頃から反戦運動を展開しました。また、米ソの冷戦中は核兵器廃絶運動を盛り上げています。そして、58歳にして叡智に満ちた『幸福論』を書き上げました。この本は大ベストセラーとなり、欧米では今もロングセラーとして多くの人々に読まれています。
同書の最大のキーワードは、「ねたみ」です。特に「民主主義の根底にはねたみがある」と指摘し、自己評価が客観的でないと被害妄想が生まれると述べています。そして、その被害妄想が「ねたみ」と結びつき、人を不幸にするといいます。その際に自分の「ねたみ」を認識できないと、それを正当化しようとする自己欺瞞が生まれると、ラッセルは主張します。



これは「求めよ、さらば与えられん」というキリスト教的幸福論とはまったく一線を画した考え方であり、他人への「ねたみ」から欲望が生まれ、それが煩悩となり、ついには不幸となるという点は仏教的ですらあります。天才「法則ハンター」であったラッセルには、「ねたみ」から生まれる欲望が「呪い」に通じていることがよくわかっていたのでしょう。逆に、「幸福になる一番簡単な方法は、他人の幸せを願うことです」というラッセルのメッセージは、イエス・キリストの心に最も近かったかもしれませんね。
なお、今回のラッセルのエピソードは『法則の法則』にも登場します。


法則の法則―成功は「引き寄せ」られるか

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2013年9月30日 佐久間庸和