『おとなになれなかった弟たちに・・・』 

明日は、71回目の「終戦の日」です。ブログ「終戦70年の日」で紹介したように、大きな節目を迎えた昨年の8月15日は靖国神社を参拝しましたが、今年は小倉で黙祷いたします。
さて、連載100回を記念して、過去の「ハートフル・ブックス」をご紹介しています。
第6回目は、「サンデー新聞」2008年7月19日号に掲載されました。「終戦の日」に合わせ、『おとなになれなかった弟たちに・・・』米倉斉加年著(偕成社)を紹介しました。


サンデー新聞」2008年7月19日号



夏になると、「今年も『終戦の日』が来るなあ」と思います。
太平洋戦争は日本人にとって決して忘れられない深い悲しみの記憶です。戦争文学の名作といえば、最近では故野坂昭如さんの直木賞受賞作『火垂るの墓』が思い浮かびます。
1988年には高畑勲監督によってアニメ映画化され、日本中が涙しました。
実写映画化もされ、2008年7月5日から全国ロードショー公開されました。



火垂るの墓』は、戦争の混乱のなか、孤児となった幼い兄妹が精いっぱい生きた物語です。主人公の少年は、4歳になる妹を栄養失調で亡くしてしまいます。今回、紹介する本も太平洋戦争で幼い弟を亡くした少年の物語です。少年が小学校4年生のとき、戦争の真っ最中に弟が生まれ、ヒロユキと名づけられました。



当時は食べ物がじゅうぶんにないため、お母さんのお乳も出なくなってしまいました。ヒロユキの食べ物は、ときどき配給される一缶のミルクだけでした。甘いものなど何もない時代、弟のミルクは育ち盛りでお腹がすいてたまらない少年にとって、あまりにも魅力的でした。弟にはミルクしかないのだとわかっていても、ついつい少年はそれを盗み飲みしてしまいます。



戦争に行って行方知れずの父親。わずかな食べ物を子どもたちに与えすぎたため、自分の母乳が出なくなった母親。そして唯一の食べ物であるミルクを兄に奪われた弟は栄養失調で亡くなります。そのため、少年は一生消えることのない悲しみと罪の意識を背負って生きてゆくのです。この少年とは、俳優の米倉斉加年さんのことです。物語は、すべて実話なのです。



米倉さんは「あとがき」に、「戦争ではたくさんの人たちが死にます。そして老人、女、子どもと弱い人間から飢えて死にます。私はそのことをわすれません」と書いています。
小学生向けの絵本です。絵もすべて米倉さんが描かれています。悲しげな母親と少年の姿が胸に痛みます。夏休み、一人でも多くのお子さんに読んでほしいと思います。


おとなになれなかった弟たちに…

おとなになれなかった弟たちに…



*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2016年8月14日 佐久間庸和