『論語力』

連載100回を記念して、過去の「ハートフル・ブックス」をご紹介しています。
第3回目は、「サンデー新聞」2008年5月24日号に掲載されました。
論語力』于丹(ユータン)著、孔健監訳(講談社)を紹介しました。


サンデー新聞」2008年5月24日号



当時、わたしは北陸大学の客員教授をしており、そこで「孔子研究」という講義を担当していました。学生の中には中国からの留学生もたくさんいました。中国の人に対して、日本人であるわたしが孔子儒教について語るのは実に不思議な気もしましたが、国費留学生を含む彼らは、とても真剣に話を聞き、黒板の文字を一字残らずノートに写していました。



当時から、日本人における中国のイメージは、良くありませんでした。食品の安全性の問題や北京オリンピック聖火リレーで世界中から注目を浴びているチベット弾圧の問題などなど・・・中国への不信感は募るばかりで、そのイメージは悪化する一方でした。
しかし、もともと「礼」や「信」といった思想は中国で生まれたのです。「仁」や「義」もそうです。それらの思想を集大成した人物こそが孔子であり、その言行録が『論語』です。



当時の中国は大変な『論語』ブームでした。ブームの火付け役は、北京師範大学教授の于丹(ユータン)さん。彼女が中国CCTVの人気番組で『論語』についての講話を行ったところ、大ヒットしました。当時は中国の全人口の約半分が視聴しているといわれ、その数は、なんと七億人だそうです。そのときの講話を本にまとめたのが本書です。海賊版も含めて、これまでに1000万部以上が売れたそうです。中国の最高指導者である胡錦濤(こきんとう)国家主席もいたく感動したそうで、多くの中国の人々が『論語』を愛読するようになったといいます。



わたしは、「これまで孔子のメッセージに背を向けていた中国の人々が、本当にこの本を愛読しているとしたら、中国は必ず良くなる」と思いました。とてもわかりやすくて、日本人にとっても最高の『論語』入門だといえるでしょう。わたしは、『論語』によって、多くの大切なことを学びました。孔子こそは「人類の教師」の一人であり、その言葉はすべての人類にとっての大きな財産であると確信します。中国の留学生たちに「礼」や「信」を説くことは、わたしにとって、大恩人である孔子への恩返しだと思っていました。


論語力

論語力



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2016年8月12日 佐久間庸和