『世界聖典全集』を全巻入手しました

ものすごく嬉しいことがありました。長年求め続けていた幻の古書をついに入手することができたのです。いま、わたしの心は喜びで打ち震えています。もう20年以上探し続けていた幻の全集である『世界聖典全集』全30巻を神保町の小川書店で購入したのです。同全集の端本は珍しくありませんが、全巻揃いはなかなか市場に出ません。快挙です!


これが『世界聖典全集』全30巻だ!

表紙は太陽と月の装丁!

背表紙には宗教名も・・・・・・

背表紙には宗教名も・・・・・・



ブログ「呉竹文庫」で紹介したように、昨年末、石川県白山市にある「呉竹文庫」で同全集の実物を見かけ、どうしても欲しくなりました。ほぼ毎週末ネットで探していましたが、数日前の夜、ついに発見。古書サイトへのアップ直後に購入することができました。届いた本を手に取って感激! どうやら個人の蔵書だったらしく、状態の良い美本です。革張りで、表紙には太陽と月が箔押しされています。「これぞ聖典!」という重みがあります。
わたしは、もう、かたじけなさに涙こぼるる思いでした。


感無量であります!(ブックスタンドは孔子仏陀!)



『世界聖典全集』とは、大正年間に世界聖典全集刊行会から出版された世界中の宗教や哲学における聖典を網羅した稀有壮大な叢書です。まさに大正教養主義を象徴する全集でした。『論語』をはじめとした四書や仏典はもちろん、『古事記』や『日本書紀』、『旧約聖書』『新約聖書』『コーラン』、さらにはバラモン教の『リグ・ヴェーダ』『ウパニシャッド』、ゾロアスター教の『アヴェスタ』、エジプトの『死者の書』まで収めています。大正時代には仏教、宗教書出版が活発になり、『真宗全書』(蔵経書院)、『日本大蔵経』(其編纂会)、『仏教大辞彙』(冨山房)、『仏教大観』(丙午出版社)、『仏教大系』(其完成会)、『仏教大辞典』(大倉書店)などが続々と刊行されていました。それらの企画には東京帝国大学教授で仏教学者の高楠順次郎が必ずが加わっていましたが、彼こそ『世界聖典全集』の出版プロデューサーでもありました。つまり、『世界聖典全集』は各種の仏教全集の番外版というか、仏教以外のすべての宗教の聖典を網羅するという野望があったようです。同全集は「前輯」と「後輯」に分かれていますが、そのラインナップは以下の通りです。


『世界聖典全集』前輯



『世界聖典全集』前輯

 1『日本書記神代巻』全 加藤玄智纂註
 2『四書集註』上 宇野哲人
 3『四書集註』下 宇野哲人
 4『三経義疏』上 高楠順次郎
 5『三経義疏』下 高楠順次郎
 6『印度古聖歌』全 高楠順次郎
 7『耆那教聖典』全 鈴木重信
 8『アヹスタ經』上 木村鷹太郎訳
 9『アヹスタ經』下 木村鷹太郎訳
10『死者之書』上 田中達訳
11『死者之書』下 田中達訳
12『新訳全書解題』全 高木壬太郎訳
13『新約外典』全 杉浦貞二郎訳
14『コーラン經』上 坂本健一訳
15『コーラン經』下 坂本健一訳


『世界聖典全集』後輯



『世界聖典全集』後輯

 1『古事記神代巻』全 加藤玄智纂註
 2『道教聖典』全 小柳司気太他訳
 3『ウパニシャット全書』一 高楠順次郎他訳
 4『ウパニシャット全書』二 高楠順次郎他訳
 5『ウパニシャット全書』三 高楠順次郎他訳
 6『ウパニシャット全書』四 高楠順次郎他訳
 7『ウパニシャット全書』五 高楠順次郎他訳
 8『ウパニシャット全書』六 高楠順次郎他訳
 9『ウパニシャット全書』七 高楠順次郎他訳
10『ウパニシャット全書』八 高楠順次郎他訳
11『ウパニシャット全書』九 高楠順次郎他訳
12『旧約全書解題』全 石橋智信著
13『旧約外典』全 杉浦貞二郎訳
14『アイヌ聖典』全 金田一京助
15『世界聖典外纂』全 高楠順次郎他著



ものすごいラインナップです。リアル「こころの世界遺産」と呼ぶべき内容です。
聖徳太子神道・仏教・儒教を「和」の精神で宗教編集しましたが、『世界聖典全集』もまさに「和」の精神で編集された前代未聞、空前絶後の出版物でした。特に126種の「ウパニシャット」を翻訳したことは偉業であり、インドでもこの試みはなされていませんでした。ちなみに、1980年に『ウパニシャット全書』の名で東方書院から復刻されています。


『世界聖典全集外纂』の扉



しかし、『世界聖典全集』の本当の凄味は、最終巻の『世界聖典外纂』です。
その内容を見て、わたしはとても驚愕しました。以下の通りです。
世界宗教概説」高楠順次郎、「ボン教」寺本婉雅、「道教」小柳司気太、「朝鮮の天道・侍天教」幣原坦、「台湾の宗教」丸井圭次郎、「琉球の宗教」折口信夫、「印度六派哲学」木村泰賢、「印度教諸派」中野義照、「シク教」「ブラーフマ・サマージ」「アーリヤ・サマー」「神智教」宇井伯寿、「ユダヤ教」石橋智信、「ミトライズム」「摩尼教」「スーフィーズム」荒木茂、「バハイ教」松宮養一郎、「基督教各派源流」杉浦貞二郎、「景教」佐伯好郎、「モルモン宗」「クリスチャン・サイエンス」石橋智信、「印度の仏教」木村泰賢、「支那の仏教」常盤大定、「西蔵喇嘛教」寺本婉雅、「朝鮮の仏教」常盤大定、「仏教各派源流」鷲尾順敬、「主智教」鈴木宗忠)、「スヱデンボルグ」鈴木貞太郎、「フリーメーソンリー」川辺喜三郎、「シャマン教」ツァプリカ著・浅田抄訳、「倫理運動及び倫理教」井上哲次郎


折口信夫の名を発見!

なんと、鈴木大拙がスエデンボルグについて、早稲田大学教授で社会学者だった川辺喜三郎がフリーメーソンについて書いています。そして、何よりも驚くべきは、折口信夫が「琉球の宗教」について書いていることでしょう。
古本屋の研究日誌」というブログによれば、昭和18年に刊行された折口の代表作『死者の書』の初版では表紙に「オシリスの霊魂」の図版が使われていますが、これは『世界聖典全集』の『死者之書』から選ばれたそうです。それを表紙にすることで、浄土三部経にいう「日想観」と世界神話との習合、和漢洋の死者の書が重なる姿を幻視していたといわれているとか。折口は『死者の書』続篇でも、キリスト教ネストリウス派がアジアに伝播した景教空海によって伝来された大日如来曼荼羅との融合を描いています。まさに『世界聖典全集』的な知というか、宗教を超えた「普遍」への憧憬をそこに見ることができると言えるでしょう。2010年、今や折口信夫研究の第一人者となった安藤礼二氏による注解を伴った『死者の書』が続編と「口ぶえ」を伴って岩波文庫化されました。その『死者の書・口ぶえ』の表紙は『死者の書』の初版を再現しています。岩波文庫としては異色の黒い表紙カバーとなっています。


『死者之書 上』の外観

『死者之書 上』の内容

図版も豊富です

わたしは、まるで背後にフリーメーソン大本教でも存在したのではないかとさえ思える「万教同根」のオーラに包まれたこの革張りの重厚な全集の虜になりました。あまりも謎が多いので、『世界聖典全集の謎』という本を書きたい欲望にも駆られますが、とりあえずは全巻読破することを老後の楽しみにしたいと思います。『世界聖典全集』を読破するという夢が、わたしの「死ぬまでにやっておきたいこと」に加わりました。



いま、わたしは次回作である『儀式論』を執筆する最終準備に入っています。
この本を書くにあたって、わたしは「宗教において、重要なのは教義よりも儀式である」「儀式は教義に優先する」という持論を持っています。しかし、この『世界聖典全集』に収められている聖典とは、各宗教の教義そのものです。これだけの大量の教義を目の前にすると、わたしは「儀式もいいけど、教義も凄えなあ!」と思ってしまいます。なにしろ、サムシング・グレートからの啓示を受けたとはいえ、生身の人間が「宇宙の法則」を書き記したわけですから。



それにしても、世界のあらゆる宗教を公平に国民に紹介する日本の出版文化は素晴らしいと思います。他国では絶対にありえない出版物でしょう。日本ほど世界中の書物が翻訳されている国はないそうですが、『世界文学全集』とか『世界思想全集』とか『世界の名著』といった総合性のある全集ほど、日本人の精神的寛容性が発揮されているものはありません。だって、同じ全集の中に『聖書』も『資本論』も『種の起源』もニーチェハイデガーサルトルも入っているなんて、普通はありえないでしょう。まさに、日本の全集文化こそは「なんでもあり」「いいとこどり」の心学の精神が溢れていると思います。


わたしは、『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)で、ブッダソクラテス孔子老子聖徳太子モーセ・イエスムハンマドの8人を「人類の教師」として取り上げましたが、彼らが総登場する『世界聖典全集』こそは人類学校の教科書と言えるかもしれません。全巻揃った『世界聖典全集』は、アンドフル・ワールドをめざす「平成心学」に深みを与えることはもちろん、「天下布礼」に大きな弾みをつけてくれることでしょう。


天下布礼」に弾みがつきます!



*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2016年3月28日 佐久間庸和