「古事記」アフタートーク

ブログ「サンレー『古事記』公演」で紹介した舞台は、北九州芸術劇場を埋め尽くした方々に大きな感動を与えましたが、公演後にアフタートークが行われました。出演者は、鎌田東二宗教哲学者・『超訳古事記』作者)先生、レオニード・アニシモフ(ロシア功労芸術家)監督、わたし、佐久間庸和(株式会社サンレー代表取締役)の3人です。コーディネーターは、内海準二さん(出版プロデューサー)でした。


サンレー古事記」公演のパンフレットより

アフタートークのようす

コーディネーターを務めた内海さん

語る鎌田先生

語るアニシモフ監督



冒頭、MCより出演者3人の紹介があり、コーディネーターの内海さんへ進行がチェンジされました。そして、出演者3人に対する質問がありました。
まず、鎌田先生に「原作者として、うれしかったこと・満足したこと・新鮮だったこと」が質問されました。次に、アニシモフ芸術監督に「演出で気をつけたこと。舞台を通して一番伝えたかったこと」が質問されました。お二人は、それぞれ自分の考えを答えられていました。


わたしも語りました



続いて、わたしに「『古事記』についてどう思うか」との質問がありました。
わたしはまず、「結婚式は結婚よりも先にあったことを再確認した」と述べました。
一般に、多くの人は、結婚をするカップルが先にあって、それから結婚式をするのだと思っているのではないでしょうか。でも、そうではないのです。『古事記』では、イザナギイザナミはまず結婚式をしてから夫婦になっています。つまり、結婚よりも結婚式のほうが優先しているのです。他の民族の神話を見ても、そうです。すべて、結婚式があって、その後に最初の夫婦が誕生しているのです。つまり、結婚式の存在が結婚という社会制度を誕生させ、結果として夫婦を生んできたのです。ですから、結婚式をしていないカップルは夫婦にはなれないのです。
結婚式ならびに葬儀に表れたわが国の儀式の源は、小笠原流礼法に代表される武家礼法に基づきますが、その武家礼法の源は『古事記』に代表される日本的よりどころです。すなわち、『古事記』に描かれた伊邪那岐命伊邪那美命のめぐり会いに代表される陰陽両儀式のパターンこそ、室町時代以降、今日の日本的儀式の基調となって継承されてきました。この舞台では、多くの神々が「われは○○の神」と言って立ち上がりながら名乗りを挙げますが、まさにこの舞台そのものが1つの儀式となっていました。


古事記』はグリーフケアの物語である!



また、わたしは、「『古事記』はグリーフケアの物語であることを発見した」と言いました。
第2部では、最愛の妻を失ったイザナギが嘆き悲しむ場面から始まります。
ブログ『古事記ワンダーランド』で紹介した鎌田先生の著書でも指摘されているように、『古事記』とは「グリーフケア」の書です。鎌田先生によれば、『古事記』には「女あるいは母の嘆きと哀切」があります。悲嘆する女あるいは母といえば、3人の女神の名前が浮かびます。第1に、イザナミノミコト。第2に、コノハナノサクヤビメ。そして第3に、トヨタマビメ。『古事記』は、物語ることによって、これらの女神たちの痛みと悲しみを癒す「鎮魂譜」や「グリーフケア」となっているというのです。最もグリーフケアの力を発揮するものこそ、歌です。歌は、自分の心を浄化し、鎮めるばかりでなく、相手の心をも揺り動かします。歌によって心が開き、身体も開き、そして「むすび」が訪れます。


鎌田先生の発言を聴きました

アニシモフ監督の発言を聴きました



内海さんは、出演者に2クール目の質問をしました。
鎌田先生には「『古事記』の意義・世界観」についての質問がされ、次にアニシモフ芸術監督に対して「演劇と儀式について」「なぜロシアで日本の『古事記』に注目したのか」が質問されました。それぞれ大変興味深いコメントを述べられていました。


「むすび」について語りました



そして、わたしには「サンレーさんは、神道の概念である『むすび』という言葉を大切にしているそうですが?」と聞かれました。わたしは、以下のように述べました。「むすび」という語の初出は日本最古の文献『古事記』においてです。冒頭の天地開闢神話には二柱の「むすび」の神々が登場します。八百万の神々の中でも、まず最初に天之御中主神高御産巣日神神産巣日神の三柱の神が登場しますが、そのうちの二柱が「むすび」の神です。『古事記』は「むすび」の神をきわめて重要視しているのです。大著『古事記伝』を著わした国学者本居宣長は、「むすび」を「物の成出る」さまを言うと考えていました。「産霊」は「物を生成することの霊異なる神霊」を指します。つまるところ、「産霊」とは自然の生成力をいうのです。


「笑い」について語りました



古事記』には、あまりにも有名な「むすび」の場面があります。天の岩屋戸に隠れていた太陽神アマテラスが岩屋戸を開く場面です。アメノウズメのストリップ・ダンスによって、神々の大きな笑いが起こり、洞窟の中に閉じ籠っていたアマテラスは「わたしがいないのに、どうしてみんなはこんなに楽しそうに笑っているのか?」と疑問に思い、ついに岩屋戸を開くのでした。
古事記』は、その神々の「笑い」を「咲ひ」と表記しています。
この舞台「古事記」の第2部のラストシーンは、まさに神々が大笑いして岩戸屋が開き、世界に再び光が戻る感動的な場面でした。ラストシーンでは神々が手に鏡を持ち、アマテラスが放つ光をそれぞれが反射している場面も印象的でした。この世に住むわたしたちも、各自が小さな太陽として光り輝きたいものです。


石笛を吹く鎌田先生

法螺貝を奏上する鎌田先生

鎌田先生の法螺貝を聴きました



その後、鎌田先生が石笛と法螺貝を奏上してくれました。
初めて聴く観客のみなさんは、さぞ度肝を抜かれたのではないかと思います。
わたしも久々に鎌田先生の法螺貝を聴けて、なんだか嬉しかったです。


最後に主催者として挨拶をしました

サンレー」の社名の意味とは?



最後に内海さんから「最後に、今日の公演の主催者として一言お願いします」と言われ、わたしは以下のように述べました。
「本日は、多くの方々にお越しいただき、本当にありがとうございました。
おかげさまで、わが社は創立50周年を迎えることができました。わが社の社名は「サンレー」といいます。これには、「SUN−RAY(太陽の光)」そして「産霊(むすび)」の意味がともにあります。


儀式によって多くの方々を幸せにしたい!

本日はありがとうございました!



最近、わが社は葬儀後の遺族の方々の悲しみを軽くするグリーフケアのサポートに力を注いでいるのですが、『古事記ワンダーランド』を読んで、それが必然であることに気づきました。なぜなら、グリーフケアとは、闇に光を射すことです。洞窟に閉じ籠っている人を明るい世界へ戻すことです。そして、それが「むすび」につながるのです。わたしは、「SUN−RAY(太陽の光)」と「産霊(むすび)」がグリーフケアを介することによって見事につながることに非常に驚くとともに安心しました。
これからも、儀式によって多くの方々を幸せにするお手伝いがしたいと願っています。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。今日は、本当にありがとうございました!」
すると、満員の会場から割れるような盛大な拍手が起きて感激いたしました。
鎌田先生、アニシモフ芸術監督、「東京ノーヴィレパートリーシアター」のみなさん、そして何よりもご来場下さったお客様に心より感謝を申し上げます。


アフタートーク終了後に鎌田先生と

儀式論』をお求めいただいたお客様と



*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2017年1月28日 佐久間庸和