たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。
そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。
その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。
今回ご紹介するハートフル・キーワードは、「祝」です。



わたしは、「祝う」という営み、特に他人の慶事を祝うということが人類にとって非常に重要なものであると考えています。なぜなら、祝いの心とは、他人の「喜び」に共感することだからです。それは、他人の「苦しみ」に対して共感するボランティアと対極に位置するものですが、実は両者とも他人の心に共感するという点では同じです。



「他人の不幸は蜜の味」などと言われます。たしかに、そういった部分が人間の心に潜んでいることは否定できませんが、だからといって居直ってそれを露骨に表現しはじめたら、人間として終わりです。社会も成立しなくなります。他人を祝う心とは、最高にポジティブな心の働きであると言えるでしょう。



わたしたちは、人生で数多くの「お祝い」に出合います。三日祝い、お七夜、名づけ祝い、お宮参り、お食いぞめ、初誕生、初節句、七五三祝いなど、子どもの成長にあわせて、数多くのお祝いがあります。さらには成人式や長寿祝いもありますし、何といっても結婚式があります。



思うに、人生とは一本の鉄道線路のようなものではないでしょうか。
山あり谷あり、そしてその間にはいくつもの駅があります。
「ステーション」という英語の語源は「シーズン」に由来するという話を聞いたことがあります。季節というのは流れる時間に人間がピリオドを打ったものであり、鉄道の線路を時間にたとえれば、まさに駅はさまざまな季節です。



そして、儀礼を意味する「セレモニー」の語源も「シーズン」に通じます。
七五三や成人式、長寿祝いといった通過儀礼とは人生の季節、人生の駅なのです。それも、20歳の成人式や60歳の還暦などは、セントラル・ステーションのような大きな駅と言えるでしょう。各種の通過儀礼は特急や急行の停車する駅です。



では、各駅停車で停まるような駅とは何でしょうか。誕生日が、それに当たるのではないでしょうか。老若男女を問わず、誰にでも毎年訪れる誕生日。この誕生日を祝うことは、その人の存在価値を認めることにほかなりません。別に受賞や合格といった晴れがましいことがなくとも祝う誕生日。それは、「人間尊重」そのものの行為です。わが社では、毎月の社内報に全社員の誕生日を掲載して、「おめでとう」の声をかけましょう、と呼びかけています。



世界的ロングセラー『人を動かす』の著者デール・カーネギーは、友人からその誕生日を必ず聞き出したといいます。相手が答えると、隙をみて相手の名と誕生日をメモし、帰宅後にそれを誕生日帳に記録します。そして、それぞれの誕生日には、カーネギーからの祝電や祝いの手紙が先方に届くわけです。



その人の誕生日を覚えていたのは世界中でカーネギーただ1人だったという場合もあり、相手は心から感激したそうです。特に、部下の誕生日を祝うことは、ハートフル・リーダーシップの真髄でしょう。なお、「祝」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2016年8月4日 佐久間庸和