上杉謙信(3)

宝在心



言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、最強の戦国武将として知られる上杉謙信の言葉です。
ブログ「上杉神社」で紹介したとおり、念願叶って敬愛してやまない上杉謙信を祀る米沢の神社へ参拝してきました。ここには「上杉謙信公家訓十六ケ条」の碑があります。


上杉謙信公家訓十六ヶ条」



この「上杉謙信公家訓十六ケ条」は別名「宝在心」と呼ばれている家訓です。
「宝は心に在り」とは、まさに言い得て妙です。家訓とは、家を守り立て存続させていくために家長が一族や子孫のために記したものです。鎌倉時代以後、武家にこうした家訓を残す習慣が生れました。江戸時代になると商家も経営の心構えとして家訓を定めるようになりました。
さて、上杉謙信は一体どのような家訓を残しているのでしょうか。
上杉謙信公家訓十六ケ条」は次のとおりです。



一、心に物なき時は心広く体 泰(やすらか)なり
(物欲がなければ、心はゆったりとし、体はさわやかである)
一、心に我儘なき時は愛敬失わず
  (気ままな振舞いがなければ、愛嬌を失わない)
一、心に欲なき時は義理を行う
  (無欲であれば、正しい行い、良識な判断ができる)
一、心に私なき時は疑うことなし
  (私心がなければ他人を疑うことがない)
一、心に驕りなき時は人を教う
  (驕り高ぶる心がなければ、はじめて人を諭し教えられる)
一、心に誤りなき時は人を畏れず
  (心にやましい事がなければ、人を畏れない)
一、心に邪見なき時は人を育つる
  (間違った見方がなければ、人が従ってくる)
一、心に貪りなき時は人に諂(へつら)うことなし
  (貪欲な気持ちがなければ、おべっかを使う必要がない)
一、心に怒りなき時は言葉和らかなり
  (おだやかな心である時は、言葉遣いもやわらかである)
一、心に堪忍ある時は事を調う
  (忍耐すれば何事も成就する)
一、心に曇りなき時は心静かなり
  (心がすがすがしい時は、人に対しても穏やかである)
一、心に勇みある時は悔やむことなし
  (勇気を持っておこなえば、悔やむことはない)
一、心賤しからざる時は願い好まず
  (心が豊かであれば、無理な願い事をしない)
一、心に孝行ある時は忠節厚し
  (孝行の心があれば忠節心が深い)
一、心に自慢なき時は人の善を知り
  (うぬぼれない時は、人の長所や良さがわかる)
一、心に迷いなき時は人を咎め
  (しっかりした信念があれば、人を咎めだてしない)


「上杉家訓十六ヶ条」の前で



謙信が実際に書き残した古文書が残っているわけではなく、自作かどうかは不詳です。歴代藩主と家臣団によって編纂されたのかもしれません。しかし、内容は謙信の人となりを見事に表現しているのではないでしょうか。武家の家訓ではありますが、「上杉家十六箇条」に通底しているのは「御仏の教え」のように思えます。つまり、ブッダの教えですね。特に、「八正道」や「六波羅蜜」との共通項が多いように感じます。


上杉謙信公の銅像前で



上杉謙信は神仏を篤く敬い、自ら出家もしています。
「謙信」とは法名、つまり僧侶としての名前です。青年期までは曹洞宗林泉寺天室光育から禅を学んでいますが、上洛時には臨済宗大徳寺の宗九に参禅し「宗心」という法名を受けています。そして晩年には高野山金剛峯寺内の無量光院の清胤から伝法潅頂を受け阿闍梨権大僧都の位階まで授けられています。名言ブログ「第一義」にも書いたとおり、謙信の代名詞ともいえる言葉も実はブッダの教えなのです。


上杉家の軍旗を背にして

図解でわかる! ブッダの考え方 (中経の文庫)

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2015年6月22日 佐久間庸和