徳川家康(1)


人の一生は重き荷を負うて遠き道を行くが如し




言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、江戸幕府を開いた徳川家康の言葉です。
マーケティングコンサルタント西川りゅうじん氏からの年賀状に「本年は徳川家康公がこの世を去って400年に当たります。東照公御遺訓を胸に精進して参りたく存じます」と書かれていました。「東照公御遺訓」とは、家康の遺言です。「東照宮遺訓」ともいいます。


久能山東照宮の「東照宮遺訓」



東照宮遺訓」
人の一生は重き荷を負うて 
遠き道を行くが如し 
急ぐべからず
不自由を 常と思えば 不足なし
心に望みおこらば 
困窮し足る時を思い出すべし
堪忍は無事長久の基
怒りを敵と思え
勝つことばかり知りて 
負くるを知らざれば 
害その身に至る
己を責めて 人を責むるな
及ばざるは過ぎたるより勝れり


久能山東照宮に家康公の墓所にて

家康公の御魂に手を合わせました



徳川家康は、戦国時代から江戸時代の戦国大名です。三河国(のちの愛知県)出身で、一地方豪族の松平氏に生まれました。幼少期に織田氏、今川氏で人質として過ごします。
桶狭間の戦い」で今川氏が織田氏に敗れたのに乗じて岡崎城を占拠。織田と同盟を結び、松平氏から徳川氏に改姓しました。その後、苦難の末に「天下統一」を成し遂げ、265年続く江戸時代の礎を築いた人物としてあまりにも有名です。家康の生涯は、山岡荘八の大作『徳川家康』全26巻に詳しく描かれています。



歴史上、あらゆる日本人の中でも最高の成功者は、徳川家康ではないでしょうか。
数奇な運命をたどり、幽閉などの不遇の時代がありましたが、そのときに集中的に本を読んで読書好きになったのか、家康は非常な読書家として知られています。読書から得た歴史の知識などを活用した行動で、戦国の乱世を勝ち抜いて成功したとされているのです。その家康は儒教の書物を好んで読んだといいます。

戦国大名と読書

戦国大名と読書



家康の侍医であり側近でもあった板坂卜斎が、その著『慶長記』で明らかにしたところによれば、『史記』や『漢書』などの歴史書や、『貞観政要』『群書治要』などの政治書と並んで、『論語』『中庸』『大学』『周易』などの儒教書を愛読していたといいます。「家康ほど、『論語』を読み込んだ人間はいない(唯一の例外は渋沢栄一)のでは?」と思うくらい、彼の開いた江戸時代は儒教の理想とする世界を実現しています。


老福論―人は老いるほど豊かになる

老福論―人は老いるほど豊かになる

たとえば、儒教の特徴として、高齢者を敬うという「敬老」思想があります。
拙著『老福論〜人は老いるほど豊かになる』(成甲書房)に詳しく書きましたが、家康は、将軍に次ぐ幕府の最高職を「大老」、続いて「老中」、そして「年寄」、各藩においても藩主の次に「家老」を置くなど、徹底して「老」を重視した組織を構築しました。庶民の間でも、高齢の「隠居」に何でも相談するという敬老文化、あるいは好老文化が花開きました。そして、江戸幕府は、世界史に冠たる「長期安定政権」となりました。高齢者を大切にする社会は長続きするという法則を、家康は儒教書から学んだように思えてなりません。
「東照公御遺訓」からは「人生は長く、苦しいことが多いので、辛抱強く努力を重ねて進むべきである」であるメッセージが読み取れますが、じつは家康は孔子から受け継いだ「人は老いるほど豊かになる」という信条の持ち主だったのではないでしょうか。


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2015年1月11日 佐久間庸和