成人式と結婚式

15日の朝、北九州空港からスターフライヤーで東京に来ました。
14時半から、國學院大學の渋谷キャンパス「常磐松ホール」において第3回「國學院大學オープンカレッジ特別講座〜人生儀礼への取組みをより深く知る」が開催され、わたしも参加しました。ブログ「國學院大學オープンカレッジのお知らせ」で紹介した講座で、一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会と互助会保証株式会社の共催です。


第3回特別講義のようす



ブログ「人生儀礼の世界」で紹介したように、第1回目の特別講義は5月20日に開催されました。テーマは「豊かに生きる:人生儀礼の世界」で、國學院大學教授の石井研士先生によって、1時間半にわたり中味の濃い講義を受けました。
またブログ「誕生と生育」で紹介したように、第2回目の特別講義は6月24日に開催され、「生まれる:誕生と生育」のテーマで、宗教民俗学者の田口祐子氏が講義を行いました。


講義する石井先生



そして第3回目の今回のテーマは「大人になる:成人式と結婚式」で、再び石井先生が特別講義を行いました。テーマにちなんだのか、司会進行を担当された國學院大學大学院博士課程(後期神道学・宗教学専攻)の松本昌子さんは晴れ着姿でした。とても綺麗でした。




石井先生は、講義の冒頭で「儀礼文化が失われるということは、人間社会から豊かさが失われるということです。最近では『死』が注目されていますが、人生の最後だけを見つめるのは辛いのではないでしょうか。もっと人生全体を見つめたほうがいいように思います。一年を楽しく生き、一生を楽しく生き、気がついたら死んでいたというのが理想ですね」と述べられました。



それから成人式の問題を取り上げられ、「成人式:私たちはいつ大人になるのか」「成人式の歴史」などについて話されました。
ブログ『通過儀礼』で紹介した本の著者である人類学者ヘネップの「いかなる形態の社会でも、個人を限定された状態から、他の同じく限定された状態に通過させるという同一の目的をもった儀礼が存在する」という言葉を紹介し、分離・過渡・結合という「儀礼の三段階」について説明されました。


野沢温泉村道祖神祭り」のDVDが流されました

「日本一の火祭り」と呼ばれます


興味深かったのは、「野沢温泉村道祖神祭り」のDVDが流されされたことです。
この祭りは、日本の三大火祭りの一つで、小正月の1月15日に行われる火祭りで、平成5年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。
祭りの中心は、25歳および42歳の厄年の男たちです。厄年代表者らと、それ以外の男たちによって壮大な規模で火の攻防戦が繰り広げられます。約1時間半にわたる火をめぐる攻防戦は双方の手締めにより終えます。最後は、神を天に帰すべく社殿に火が入れられます。この野沢温泉村道祖神祭りは「日本一の火祭り」とも呼ばれ、25歳の男たちにとって真の成人式となっています。




それから、次は結婚式です。冒頭で石井先生は「伝統的な社会では、成人式をへて一人前にならないと、結婚はできませんでした」と述べられました。かつては会社などでも、既婚者と未婚者の間には一線が引かれ、結婚していない男性は一人前と見られませんでした。そして男女を問わず、未婚者は何かと「早く結婚しないとね」とからかわれたものでした。今そんなことをすれば、セクハラで大問題になります。



石井先生は「結婚式と婚姻」「婚姻の歴史」「神前結婚式の誕生」などについて説明して下さいました。結婚式の舞台においても、明治記念館から虎ノ門会館や九段会館、それから冠婚葬祭互助会の誕生に触れられました。さらには、名古屋冠婚葬祭互助会から生まれた「平安閣」や京都市冠婚葬祭互助会から生まれた「玉姫殿」が全国を席巻し、日本人の儀礼文化に大きな影響を与えたことを指摘されました。このあたりは、ブログ『結婚式 幸せを創造する儀式』で紹介した石井先生の著書でも述べられています。


日本人の結婚式について述べる石井先生



また興味深かったのは、神前結婚式を最も行ったのは団塊の世代であるという指摘です。ヒッピー、フラワーチルドレンなどの「カウンターカルチャー」の日本版とされた団塊の世代は、ジーパンを履くなど、時代の価値観に対抗したことで知られます。
そんな彼らが神前式で素直に挙式したというのは意外な気もしますが、そこは神前式ならば親たちも納得するという計算もあったようです。当時、結婚式や披露宴の費用は親が負担するのが一般的だったのです。




しかし、この15年ほどで日本の儀礼文化は大きく変わりました。
かつて、日本人の結婚式といえば、ほとんどが神前式でした。でも、今では2割程度です。またキリスト教婚式は6割、海外挙式も加えれな実に7割にも及んでいます。その背景には個人の尊重がありました。「家」から「個人」へ・・・・・・その象徴ともいえるものが教会での結婚式、いわゆるチャペル・ウエディングの流行だと言えるでしょう。



石井先生は、チャペル・ウエディングの流行には、ウォルト・ディズニーのアニメの影響が大きいと言われていました。「白雪姫」とか「眠れる森の美女」のラストは幸せな結婚式のシーンで終わります。このイメージが日本の若者たちの結婚観に多大な影響を与えたというのです。これらのディズニー・アニメでは「王子様のキス」とか「真実の愛」といったキーワードが浮かびますが、ブログ「アナと雪の女王」ブログ「マレフィセント」で紹介したディズニーの新作映画では「王子様のキス」も「真実の愛」も否定されています。何か大きな価値観の変化が起こっているのかもしれませんね。



それから面白かったのが、石井先生の「近年、結婚式が成人式の意味をもつ」という指摘でした。披露宴の最後に号泣する新郎が増えているというのですが、先生は「男にとっても、結婚は家を出ること。感きわまるようで、新婦や両親の前で号泣する新郎をよく見かけます」と言われていました。このあたりは、ブログ「すべての儀式は卒業式」にも書いたように、わたしの持論でもあります。号泣する男性といえば、わたしは例の兵庫県議を連想しました。(苦笑)
王子様のキスを拒否する女性の登場だけでなく、泣き叫ぶ男性の増加・・・・・・ここからも、大きな変化の予感がしますね。安倍首相の唱える「ウィメノミクス」にも通じる、大いなる女性の時代が近づいているのでしょうか?


小谷村の結婚式のDVDが流れました

日本人には和が似合う!



そして石井先生は長野県小谷村大綱の結婚式のようすをDVDで見せて下さいました。
限界集落に生きる30代の男女の結婚式の一部始終を記録した映像でしたが、2人の和服姿が凛々しく、また神社での結婚式は荘厳でした。わたしは、ブログ「素晴らしき和婚」にも書いたように、やはり「日本人には和が似合う」と痛感しました。日本人の素晴らしい伝統的結婚式のようすが見事に記録されていますので、みなさんもぜひ動画で鑑賞して下さい。



石井先生は、ブログ『世界宗教史』で紹介した大著の著者で「20世紀最大の宗教学者」と呼ばれるミルチャ・エリアーデの「近代世界の特色の一つは、深い意義を持つイニシエーション儀礼が消滅し去ったことだ」という言葉を紹介し、「通過儀礼」としてのイニシエーションの意義というものを説きました。石井先生いわく、集団と個人は相いれないものではない。集団の中に入っても、個性というものは簡単には消えない。『オンリーワン』などと言わなくてもよい。そんな言葉を使うと、かえって辛くなる」と述べました。


國學院神道文化学科のガイドブック

「加冠式」は素晴らしい儀礼文化です!


それから、全員に配布してあった『平成26年度 國學院大學 神道文化学部 神道文化学科 GUIDE BOOK』を開かれ、その中に紹介されている「加冠式」について説明されました。これは、奈良・平安時代の貴顕社会で実施された成人儀式です。例年、石井先生が学部長を務められる神道文化学部の主催により、新成人を迎える学生を対象として、祭式教室で実施されるそうです。わたしは、この「加冠式」を素晴らしい儀礼文化の“温故知新”であると思いました。最後に、石井先生は「儀式をきちんと行うことによって、人は幸せになれます!」と言われ、特別講義を終えられました。わたしは「その通り!」と思いましたね。


講義後に松本さんが総括しました



講義後は、着物姿で司会を務めた松本さんから石井先生にいくつかの質問が発せられた後、「いま、人前式というものが増えています。しかし、人間を超越した存在に何かを誓うことが儀式には必要ではないでしょうか。かつての日本社会の祝言では、個人を超えた共同体に誓い、明治以降の神前式では神に対して誓いました。何かに誓うということが覚悟を生み、幸せになれるように思います」と述べられました。このあたりは、拙著『結魂論〜なぜ人は結婚するのか』(成甲書房)で力説したメッセージと重なります。
ということで、内容に共感することができ、大満足の第3回目の特別講義でした。


新刊の見本を持つ内海さん



さて、今回も「出版寅さん」こと内海準二さんが参加してくれました。
内海さんは『決定版 冠婚葬祭入門』(実業之日本社)、『葬式は必要!』、『ご先祖さまとのつきあい方』(ともに双葉新書)など多くの拙著を編集していただいた敏腕エディターです。
わたしが「天下布礼」を進める上で、絶対に欠かせない同志でもあります。


儀礼文化の必要性と素晴らしさを説いた本です!



今日は「ようやく見本ができたよ」と言って、刷り上がったばかりの『「人間尊重」のかたち〜礼の実践五〇年』(PHP研究所)を見せてくれました。サンレーグループ 佐久間進会長の新刊ですが、まさに儀礼文化の必要性と素晴らしさを説いた本です。早く、この本が全国の書店に流通し、多くの人から読まれることを願っています。帰りは、内海さんと講義の感想を述べ合いながら、一緒に渋谷駅まで歩きました。わたしは「國學院大學で学んだ佐久間会長もこの道を通ったのかな」と思いながら、渋谷までの道を歩きました。



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2014年7月15日 佐久間庸和