
佐久間庸和です。
わたしは一条真也として、これまで多くの言葉を世に送り出してきました。この際もう一度おさらいして、その意味を定義したいです。今回は「DNAリーディング」です。
『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)
この言葉は、2009年10月に上梓した拙著『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)の中で初めて打ち出したものです。DNAリーディングとはテーマ別読書法なのですが、具体例で紹介してみます。わたしが「法則」という概念について興味を持ったとします。これを探究しようとしたときにどうするか? 『法則の法則』(三五館)を執筆したとき、わたしは「引き寄せの法則」の関連本を片っ端から全部読みました。ジェームズ・アレンの『「原因」と「結果」の法則』をはじめ、『ザ・シークレット』『思考は現実化する』『ザ・マスター・キー』などを読んでいくと、「引き寄せの法則」自体は、どうもキリスト教のプロテスタント運動に源流がありそうだということに気づきました。
『法則の法則』(三五館)
もう1つは法則主義的な法則さえ納めておけば、無駄なことをしなくて済む。これはどうもマルサスとかダーウィンからきているんではないか。マルサスは『種の起源』の愛読者であったし、ダーウィンは、マルサスの『人口論』を読んでいたのです。こうした方法論で見ていくと、たとえ「法則」といった得体の知れないものであっても、その尻尾だけでも掴むことができるようになります。経営者の本を読むと、松下幸之助氏や稲盛和夫氏も倫理を説いています。それは原点を探っていくと、日本の儒教や武士道に行き着くのです。そして、その原義をさかのぼっていくと、中江藤樹がいて、さらにその先に王陽明がいて、そのまた先に老子がいて、最後は孔子にまでたどり着くのです。
文学の場合でもそうです。松本清張の生誕100年にあたる2009年に知ったのですが、松本清張と太宰治は同時代人です。作家としてのイメージも作品もまったく異なるこの2人は同年生まれなのです。これは意外な印象を受けるかもしれません。しかし、2人とも芥川龍之介の大の愛読者で、芥川龍之介に憧れていたという共通点があります。2人の原点ともいえる芥川龍之介は、志賀直哉を非常に意識していました。志賀直哉は夏目漱石を意識していました。夏目漱石は滝沢馬琴を意識していました。辿っていくと、わたしがリスペクトするが吉田松陰にたどり着きます。吉田松陰は、幕末の儒者、佐藤一歳を尊敬していて、佐藤は中江藤樹を、中江は陽明学だから王陽明を・・・・・・はてしなく続いていって、王陽明は孟子、孟子は孔子と源流がわかるわけです。
その前に枝葉はさらに細かく分かれていて、たとえば漱石の処女作である『吾輩は猫である』の正体は、一種の百科事典、正確に言えば世界文学事典です。同書には、スウィフトの『ガリバー旅行記』、デフォーの『ロビンソン・クルーソー』、スターンの『トリストラム・シャンディ』など、漱石が愛読していた英文学の名作のエッセンスがふんだんに詰まっています。また、ドイツ文学ではホフマンの『牡猫ムルの人生観』、さらにはロシア文学であるトルストイ『イワンの馬鹿』の強い影響も見られます。どこがどうだと具体的に指摘していくのはキリがないので控えますが、とにかく漱石は『文学論』の小説版として、『猫』を書いた可能性があるのです。それだけではありません。『猫』には、漱石が愛した江戸落語(「やかん」「そうめん」など)がふんだんに引用されています。漱石は、自作の小説という玩具箱に、自分の愛用している玩具(小説・落語)をどんどん放り込んでいったのです。
そういうのを1回きちんと読んでおくと、読書の見取り図になります。目次と同じで、もっと大きな目次と思ったらいいでしょう。いま自分が読んでいる本、著者、考え方の源流はどこにあるのか。人類史的に見て、思想史的にはどのへんにあるのか知っていたほうがその作品についての理解度は格段に深まります。漱石の代表作の1つに『草枕』がありますが、これは蕪村の俳句の世界を小説化したものだとされています。漱石は蕪村に憧れていたのです。蕪村は芭蕉を師と仰いでいました。「俳聖」と呼ばれた芭蕉は、「歌聖」と呼ばれた西行を敬愛していました。西行→芭蕉→蕪村→漱石とつながってゆくわけですが、このDNAの鍵として「月」があると思います。
「月の色に心をきよく染ましや 都を出ぬ我身なりせば」
これは西行の歌です。西行の歌集『山家集』を見ると、月の歌が115首も入っています。この数は、歌集の常識を超えた多さです。とくに、上の歌は、西行が都を出て出家する時のものだと伝えられています。彼の人生における最も重要な場面に月が関わっているというわけです。西行が「歌聖」なら、「俳聖」といわれたのは芭蕉です。芭蕉もおびただしい数の月の句を詠んでいます。たとえば、「名月や池をめぐりて夜もすがら」など、芭蕉の全発句937句のうち月を詠み込んだものが1割以上の106句におよんでいるのです。ちなみに、太陽を詠んだものはわずか数句にすぎません。「月」を愛でるDNAは、蕪村や漱石や志賀直哉、芥川龍之介、太宰治、三島由紀夫へと受け継がれてゆきますが、さらに村上春樹氏にまで受け継がれています。村上氏のベストセラー『1Q84』では、奇妙な2つの月が登場します。
DNAリーディングは、自分の心にマップやインデックスを作って、今読んでいる本や著者はどのへんに位置するんだというふうに、時間軸と空間軸でマッピングすると言えるでしょう。マッピングしてとらえてしまえば、その思想も上手くとらえることができます。テーマ別横断読書というのは空間軸です。上記の例でいうと、法則というテーマを片っ端から読んでいく。引き寄せの法則を全部読むとかは水平思考。遡ってそのアイディアの源流を探っていくのは、垂直思考です。縦糸と横糸があって、思考は深まります。読んでいる本を完全に自分のものにいたいときの方法論として、時間軸(垂直思考)と空間軸(水平思考)で追いかけてみることで、メッセージの理解は格段に深まり、その本は完全に自分のものとなるでしょう。
「no+e」より
このようなわたしの考えについて、「no+e」というサイトに「『一条真也』流: 読書術『DNAリーディング』で思想的源流をさかのぼる」というタイトルの記事が掲載されたことがあります。綿樽剛という方が、「冠婚葬祭業大手(株)サンレーの社長で、作家で、大学で『論語』を教える客員教授という『知の巨人』 一条真也氏の読書法だ。年間700冊を読み、同時に相当のアウトプットもしている。アマゾンを見ると、なかなか重い著作も何冊も書いている。(中略)そんな一条氏の読書法の中で際立っている『DNAリーディング』を紹介してみたい」と書かれています。また、綿樽さんは「DNAリーディングというのは一条氏のオリジナル語彙のようだ。基本的には『関連図書』を芋づる式に読んでいく方法なのだけれど、特に際立っているのは、その作家の思想の源流を探る読み方をするということだ」と定義づけています。「知の巨人」と呼んでいただけたことは恐縮の至りですが、DNAリーディングに興味を抱く方が1人でもいるのは嬉しいことです。
2026年1月13日 佐久間庸和拝




