たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。
そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。
その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。
今回ご紹介するハートフル・キーワードは、「大」です。



西郷隆盛という人は、とにかく大人物であったようです。自身も大物ぶりを発揮したあの坂本龍馬でさえ、「大きく叩けば大きく響き、小さく叩けば小さく響く。馬鹿なら大馬鹿だし、利口なら大利口だ」と西郷を評しています。



人物が大きいというのは、いかにも東洋的な表現ですが、明治も終わったとき、ある外務大臣の私的な宴会で、明治の人物論が出ました。司馬遼太郎の『坂の上の雲』にこの場面が出てきますが、「人間が大きいという点では、大山巌が最大だろう」と誰かが言うと、「いや、同じ薩摩人ながら西郷従道のほうが、大山の五倍も大きかった」と別の人が言ったところ、一座のどこからも異論が出なかったといいます。



もっとも、その席に西郷隆盛を知っている人がいて、「その従道でも、兄の隆盛に比べると月の前の星だった」と言いましたから、一座の人々は西郷隆盛という人物の巨大さを想像するのに、気が遠くなる思いがしたといいます。



もちろん、その巨体やアーネスト・サトウを感嘆させた大きな目などの肉体的特徴もあったでしょうが、西郷隆盛の巨大さは彼の心の大きさに由来しました。「敬天愛人」を座右の銘にしたごとく、彼は常に「天」というものを意識しながら生き、行動したのです。



人間の心の大きさに気づかなければならないと訴えたのは、中村天風です。彼は、果てしない大宇宙よりも人間の心のほうが偉大であるとしました。月を見て佇めば、心は見つめられている月よりも、さらに大きいと考えられます。星を見て佇んでいるときに、その星を見て考えている心の中は、大きなものを相手に考えているのですから、それだけで、星以上に大きなものではないか。いかに人の心が一切をしのいで広大であるか、ということがわかってくるはずだと天風は力説したのです。



松下幸之助は、こう言いました。「人間は偉大な存在やな。いわばこの宇宙においては王者やな。こう言うと、それは不遜や、傲慢やと、そう言う人も多いと思うけど、しかし、わしは理屈はようわからんけど、現実の姿を見れば、明らかにそういうことが言えるんと違うか。この宇宙のなかで人間が一番偉大であると」



そして松下幸之助は、偉大な力は使い方によって、大きな善にもなり大きな悪にもなるとして、人間の偉大さを自覚することの重要性を説いたのです。わたしたちの心はあまりにも巨大かつ偉大だ。ならば小さなことにクヨクヨせず、大きな志を抱き、大きな夢を持とうではありませんか。なお、「大」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2015年8月4日 佐久間庸和