たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。
そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。
その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。
今回ご紹介するハートフル・キーワードは、「機」です。



人間に最も大切なものは「機」というものだ。こう言ったのは、陽明学者の安岡正篤です。これは人間のみならず、自然もすべて機に満ちています。したがって人生とは、すべて機によって動いていると言ってもよいでしょう。のんべんだらりとしたものではなくて、常にキビキビとした機の連続です。機というものはツボとか勘どころとかいうものであって、その一点ですべてに響くようなものです。そこで機を外すと動かない、つまり活きない。人間の身体もそういうツボや点で埋まっているわけです。



優れた物理学者たちは、シンギュラー・ポイントというものをよく知らなければならないといいます。シンギュラー・ポイントは「特異点」と訳され、現象の世界には常に伴うものです。例えば、水を沸かすとします。しばらくは何の変化も異常もありません。そのうちに湯気が立ったり、泡が出たりしますが、それだけのことで別に何のことはありません。
ところが、何のことはないと思って安心していると、それこそあっという間に急激に沸騰し始めます。いかにもその沸騰が当然起こったような気がするものですが、その沸騰点こそがシンギュラー・ポイントなのです。



そして、「おや、煮えくり返っているぞ」と思っているうちに、異常なスピードでぐんぐん水が減っていって、時には噴き出したり、破裂したり、といった大異変が起こったりします。この沸騰してから後の半分のスピーデイな変化の推移をハーフ・ウェイといいます。
1本のタバコの吸殻が大きな山火事を起こすこともあれば、第一次世界大戦のように、セルビアの1人の青年がオーストリアの皇太子を傷つけたサラエボの一弾から大戦争が勃発したりします。人間というものは、シンギュラー・ポイントにならないと、意識しない、自覚しない、ちょうどガン患者と同じだと安岡は嘆きます。



ガンというものは決して当然変異ではなく、時間をかけて来るものですが、誰もそれに気づきません。たまたま気がついても、それを打ち消して自分で自分を慰めます。心配して医者にかかっても、医者からガンだと指摘されることを本能的に避けて、「ガンではありません。心配ないですよ」と言ってくれる医者を探して歩くのです。人間にはこのような心理がありますが、本当にガンが明らかになった時にはもう手遅れなのです。



マーケティングの第一機能とは変化に気づくことですが、リーダーは常に社会や会社のシンギュラー・ポイントに細心の注意を払う必要があります。そして、命をつないで社員ともども生き残ることはもちろん、常に商機を活かさなければなりません。
なお、「機」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2015年7月30日 佐久間庸和