渡部昇一(3)

積ん読」もまた楽しからずや



言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、「稀代の碩学」であり「知の巨人」、そして「現代の賢者」である渡部昇一先生の言葉です。渡部氏は昭和5年(1930年)に山形県鶴岡市でお生まれになりました。上智大学大学院修士課程修了後、ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学に留学。母校である上智大学で長年教鞭を執られ、現在は同大学の名誉教授です。


楽しい読書生活―本読みの達人による知的読書のすすめ

楽しい読書生活―本読みの達人による知的読書のすすめ

渡部氏は1冊の本を読んでいると、そこに出てくる別の本をどうしても読みたいと思うことが多いそうです。夏目漱石を読んでいて森鷗外が読みたくなることもあれば、哲学の本を読んでいて自然科学のことを教えられ、新しい分野の本を注文されることもしばしばだとか。
読書にキリがなくなり、本が増えて置き場所に困るようになると慨嘆されながらも、芋づる式に読書の範囲が広がっていくことは自分の視野を広めることになるとした上で、『楽しい読書生活』(ビジネス社)で次のように述べています。
「私は、新しい興味を覚えたらとりあえず本を買っておいたほうがいいという考え方をしています。たしかに、そうやってとりあえず注文したり買ったりした本が『積ん読』の元凶になるわけですけれども、『積ん読』もまた楽しからずや―と思えばいいのです。」


渡部昇一氏の書斎に積まれた蔵書



積ん読」は必要悪であり、これを全部やめてしまったら読書としては不完全であるとまで言い切られています。本を読んでいるとどうしてもその関連本を読みたくなるのは人情であり、あえて人情に逆らうのはよくないし、何より「別の世界が開けてくる可能性」や「新しい発見」も「積ん読」の魅力であると語られています。
まさに読書の醍醐味を知り尽くした渡部氏の「積ん読」論に、勇気づけられる読書家、蔵書家、愛書家も少なくないでしょう。


渡部先生の書斎で、先生と



わたしは、「世界一」と呼ばれる渡部氏の書斎および書庫を拝見させていただきました。
2階建ての書斎には膨大な本が並べられており、英語の稀覯本もたくさんありました。
チョーサー『カンタベリー物語』やパスカル『パンセ』の初版本などをはじめ、日本に1冊だけ、世界でも数冊しかない貴重な書籍の数々を見せていただきました。
伝説の『ブリタニカ百科事典』第1版の初版をはじめ、歴代のブリタニカもすべて全巻揃っていました。ちなみに先生の蔵書は約15万冊だそうです。これは間違いなく日本一の個人ライブラリーでしょう。何よりもわたしが感銘を受けたのは、この素晴らしい書斎および書庫を渡部氏はなんと77歳で作られたということです。もう凄すぎる!
なお、渡部先生とわたしは対談本『永遠の知的生活』(実業之日本社)において、本や読書の魅力についてたっぷり語り合いました。


永遠の知的生活』(実業之日本社



*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2015年1月4日 佐久間庸和