『魂でもいいから、そばにいて』   

いよいよ、ゴールデンウィークですね。旅行に出掛ける方も多いでしょう。
わたしは、どこにも行く予定はありません。「サンデー新聞」最新号が出ました。
同紙に連載中の「ハートフル・ブックス」の第109回が掲載されています。
今回は、『魂でもいいから、そばにいて』奥野修司著(新潮社)を紹介しました。


「サンデー新聞」2017年4月29日号



「3・11後の霊体験を聞く」というサブタイトルがついた本書は、怪談本というよりも愛の物語が集められた1冊です。帯には、「今まで語れなかった。でも、どうしても伝えたい」「津波で逝った愛娘の魂は、3年後、母のもとに戻った」「亡兄からの〈ありがとう〉」「霊でも〈抱いてほしかった〉」「不思議でかけがえのない〝再会の告白〟」と書かれています。



著者は、1948年大阪府生まれのノンフィクション作家です。『ナツコ沖縄密貿易の女王』で、2005年に講談社ノンフィクション賞を、2006年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しています。未曾有の大災害であった東日本大震災は、死者・行方不明者1万8000人余を出しました。その被災地で、不思議な体験が語られ続けています。多くの人の胸に秘められながら、口から口へと伝えられてきたそれは、大切な「亡き人との再会」の体験でした。



それは、亡き人から生者へのメッセージでもありました。著者は述べます。
津波で流されたはずの祖母が、あの朝、出かけたときの服装のままで縁側に座って微笑んでいた。夢の中であの人にハグされると体温まで伝わってきてうれしい。亡くなったあの人の携帯に電話をしたら、あの人の声が聞こえてきた。悲しんでいたら、津波で逝ったあの子のおもちゃが音をたてて動いた――」



拙著『唯葬論』(三五館)において、わたしは東日本大震災以来、被災地では幽霊の目撃談が相次いでいることに言及しました。さまざまな霊体験を紹介した後で、わたしは、被災地で実際に霊的な現象が起きているというよりも、人間とは「幽霊を見るサル」であり、「死者を想うヒト」なのではないかという自説を展開しました。



故人への想い、無念さが「幽霊」をつくり出しているのではないでしょうか。
そして、幽霊の噂というのも一種のグリーフケアなのでしょう。夢枕・心霊写真・降霊会といったものも、グリーフケアにつながります。恐山のイタコや沖縄のユタも、まさにグリーフケア文化そのものです。そして、霊体験や怪談こそ古代から存在するグリーフケアとしての文化装置ではないかと思えてなりません。



怪談とは、物語の力で死者の霊を慰め、魂を鎮め、死別の悲しみを癒すことです。ならば、葬儀もまったく同じ機能を持っていることに気づきます。そう、人間の心にとって、「物語」は大きな力を持っているのです。人はみな、毎日のように受け入れがたい現実と向き合います。そのとき、物語の力を借りて、自分の心の形に合わせて現実を転換しているのかもしれません。



*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2017年4月29日 佐久間庸和