『祖父が語る「こころざしの物語」』  

連載100回達成記念に、過去の「ハートフル・ブックス」をご紹介しています。
第47回目は、「サンデー新聞」2012年1月14日号に掲載されました。
わたしは、『祖父が語る「こころざしの物語」』加地伸行著(講談社)を紹介しました。


「サンデー新聞」2012年1月14日号



わたしは『世界一わかりやすい「論語」の授業』(PHP文庫)という本を書きました。同書を書いた当時は、北陸大学の客員教授として、日本人や中国人を相手に「孔子研究」の授業を担当していました。日々、わたしは自分なりに『論語』を中心とした儒教の思想を学んでいますが、その最大の師が本書の著者である加地伸行氏です。わが国を代表する儒教学者であり、わたしの尊敬する方です。



本書は、大学教育通信教育を柱とするZ会の機関誌に「こころの物語」として連載された文章を集めたものです。75歳になった著者が、まるで自分の孫たちに語りかけるように、「人間の器を広げる人生の授業」を繰り広げています。



「はじめに」で、著者は自分の幼い孫を抱くと、自然と涙がにじんでくると述べます。小学生の孫たちと出会うときは、「よく来た、よく来た」と言いながら強く抱きしめるそうです。著者は、「高齢の私は、もう欲も得もなくなっている。私のこの生あるかぎり、次の世代の人たちに、私の想いを伝えたい、伝えておきたい、という気持ちだけである」と述べ、読者を自分の孫として、「こころざしの物語」を語ります。



では、何を語るのか。それは、「若いあなたの前にある人生のさまざまな道において、どの道を選ぶべきか、その助言をしたい」というのです。
あの東日本大震災がもたらした最大のものは、〈家族の絆〉の問題でした。そのためか、家族の絆、ひいては日本人の絆、人間の絆ということが語られるようになってきています。著者は、それはそれで正しいのだが、では家族の絆とは、いったい何なのか、ということについては、あまり語られておらず、無責任ではないかと述べます。



さらに、著者は「〈家族の絆〉が大切と言うのならば、その正体とは何かを語るべきである」として、「まず私が語ろう。私が〈家族の絆〉とは何かを語りつつ、それを通じて、人の在りかた、世への見かた、友との関わりかた・・・・・・について語ってゆきたい。祖父が孫に語るようにして」と述べます。  



そして、著者は「利己主義は敵か味方か」「他者とは何か」「親とは何か」「儒教における家族」「友情について」「君子と小人と」「エリートとは何か」という七つのテーマを語りながら、〈家族の絆〉というものを鮮やかに浮き彫りにしていくのです。
高校生向けの内容ですが、大人であるわたしの心にも大いに響きました。



*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2017年3月16日 佐久間庸和