『般若心経』

東京に来ています。これから九州に帰ります。
朝日新聞」朝刊に第4回目の「こころの世界遺産」が掲載されました。
今回は、日本人に親しみのある『般若心経』を紹介しました。


朝日新聞」4月20日朝刊



前回は、上座仏教における代表的な経典である『慈経』を紹介しました。
今回は、日本などで盛んな大乗仏教を代表する経典を紹介したいと思います。
仏教には啓典や根本経典のようなものは存在しないとされます。しかし、あえていえば、『般若心経』が「経典の中の経典」と表現されることが多いです。



『般若心経』は、古代よりアジア全土で広く親しまれてきました。日本においても、戦時中に仏教各派が合同法要を営もうとしたとき、一緒に読める唯一の経典として『般若心経』の名前があがったことがあります。しかし、浄土真宗が強硬に反対して、この企画自体が立ち消えになったといいます。



なぜ、浄土真宗が反対したか。それは、『般若心経』が「空」の思想を説いているからです。浄土真宗は、阿弥陀如来は絶対的な存在であるという考えに立ちます。それが、絶対的な存在など何もないという「空」の思想と矛盾するわけです。もともと仏教そのものが「空」を根本原理とする宗教であるはずですが、浄土真宗の中では、阿弥陀如来によって浄土を約束されるという信仰に変容しているのでしょう。



それはさておき、『般若心経』における「空」の思想は中国仏教思想、特に禅宗教学の形成に大きな影響を及ぼしました。玄奘(げんじょう)による漢訳『般若心経』が日本に伝えられたのは8世紀、奈良時代のことです。遣唐使に同行した僧が持ち帰ったといいます。以来、1200年以上の歳月が流れ、日本における最も有名な経典となりました。



仏教思想の核心である「空」がきわめてシンプルに語られている『般若心経』とは、多くの日本人にとってブッダのメッセージそのものであるかもしれません。『慈経』を自由訳したわたしは、いつの日か、『般若心経』の自由訳も手掛けてみたいと思います。



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2016年4月20日 佐久間庸和