たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。
そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。
その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。
今回ご紹介するハートフル・キーワードは、「満」です。



ドラッカーは、企業の2つの基本的機能はマーケティングイノベーションであるとしましたが、ここではマーケティングについて考えたいと思います。ドラッカーいわく、マーケティングは顧客からスタートします。すなわち現実、欲求、価値からスタートします。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」と問うのです。



マーケティングにおいては、顧客ほど大切なものはなく、その満足が企業の存在基盤であるとすれば、顧客が自らの満足を得るための選択肢として同列に位置づけたとしても、顧客の選択を巡って競争せざるを得ないのです。その意味で、顧客は王様なのです。しかし、企業が売っているものは、顧客満足そのものではなく、顧客満足の手段です。



ドラッカーは言います。企業が売っていると考えているものを、顧客が買っていることは稀である、と。もちろんその第一の原因は、顧客は商品を買っているのではないということにあります。顧客は、満足を買っています。しかし、誰も、満足そのものを生産したり供給したりはできません。満足を得るための手段を作って、引き渡せるにすぎません。



商品を買うのは、それを消費、利用することによって得られるベネフィット(便益)を通して満足を得んがためです。顧客としては満足を得られればそれでよいのですが、満足は現実の売買取引の対象になりませんから、商品を購入することによって、そのベネフィットという形で入手するのです。つまり、そのための手段として商品を購入するのです。



たとえば、化粧品について考えてみると、レブロンを名だたる巨大企業に育てあげた天才的経営者チャールズ・レブソンは「工場では化粧品を作る。店舗では希望を売る」との名言を残しました。なるほど、女性が化粧品を買うとき、実は希望を買っているのです。
この考え方は、セオドア・レビットやフィリップ・コトラーといったマーケティング界の巨人たちも共有しています。



消費者が本当に買うものは、健康な歯であって、歯ブラシではありません。穴であって、ドリルではありません。娯楽であって、CDやDVDではありません。清潔な衣料であって、洗濯用洗剤ではありません。コミュニケーションであって、携帯電話ではないのです。そして、冠婚葬祭業としてのわが社は結婚式や葬儀ではなく、「人の道」を売っていると確信しています。



経営者は、自社が本当に売っているものは何かを常に問わねばなりません。顧客の満足を満たさなければなりません。結局は、お客様の心を満たすこと、それがマーケティングの本質なのです。なお、「満」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2015年12月24日 佐久間庸和