たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。
そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。
その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。
今回ご紹介するハートフル・キーワードは、「先」です。



リーダーとは先頭に立って人々を率いていく人です。
先頭に立って、というのが大切です。「率先垂範」という言葉がありますが、部下や周りの者にやらせ、自分は何もしないのでは、人は絶対についてきません。



上杉鷹山と言えば、江戸中期の米沢藩主です。
破産寸前だった藩の財政再建を見事に成し遂げた名君ですが、「リストラの神様」として知られています。しかし、鷹山は大いなる率先垂範の人でもありました。
鷹山の施策として注目されるものは、節倹と農村復興です。ともに目新しいものではありませんが、他藩では徹底されず失敗に終わることが多かったのです。他藩で節倹が徹底しなかったのは、家中の侍や領民に節倹を命じておきながら、藩主やその家族は特別扱いされているケースが多かったからです。鷹山は、食事は一汁一菜、衣服も木綿で通しました。



農村復興においては、普通は現場の責任者にすべてを任せ、藩主はタッチしませんでした。しかし、鷹山は違いました。自ら現場に足を運び、本人も鍬をふるっているのです。士・農・工・商の身分制度が厳格な江戸時代に、武士が農業経営に携わるということは考えられませんでした。「武士も農民と一緒に従事しろ」と命令されても、農村復興事業に本心から加わってくる者はほとんどいなかったはずです。それが、鷹山が藩主自ら鍬をふるい、全家臣に決意のほどを示したことにより、米沢藩の農村復興は成功したと言えます。



「してみせて 言ってきかせて させてみる」は鷹山の言葉ですが、それに改良を加えたのが山本五十六の「やってみて、言ってきかせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」という有名な言葉です。この言葉を山本五十六のオリジナルだと思い込んでいる人が意外に多いですが、ぜひ上杉鷹山がルーツであることを覚えておいていただきたいと思います。もっとも、「ほめてやらねば人は動かじ」を最後に加えた山本五十六のセンスもさすがですが・・・・・。



戦国時代において、少ない布陣で大軍に向かっていったような場合、総大将が先頭になって敵陣に突っ込んでいって勝利を収めるというようなケースがありました。永禄三年(一五六0年)の桶狭間の戦いにおける信長は、まさにその代表例です。総大将が後方にいて、ただ命令を下すだけでは士気があがらず、ここぞという時には総大将自らが刀や槍をふるわなければ人はついてきません。逆に言えば、ここぞという戦いで、自ら先陣となって突っ込んでいけるような武将こそ、真のリーダーと言えるでしょう。



もかつて社長になる5年くらい前、ホテルの総支配人を務めましたが、常に率先垂範を心がけました。毎日、宴会営業で企業などに足を運び、宴会場の片付けでは誰よりも多くの椅子を運びました。大晦日には、おせち料理も配達しました。よい思い出になりましたし、自分は現場の経験を積んでいるのだという自信も得ました。
なお、「先」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2015年7月13日 佐久間庸和