たった一字に深い意味を秘めている文字は、世界でも漢字だけです。
そこには、人のこころを豊かにする言霊が宿っています。
その意味を知れば、さらに、こころは豊かになるでしょう。
今回ご紹介するハートフル・キーワードは、「共」です。



カンパニーは「株式会社」と訳されますが、本来は「同じ釜の飯を食う同志」という意味です。ドラッカーによれば、企業は1人ひとりの人間の働きを1つにまとめて共同の働きにするといいます。では、この1人ひとりの人間の働きが仕事かというと、そうではありません。それらがまとめられ、協働のかたちをとり、共同体としての企業の働きとなって、はじめて個々の活動は仕事になるのです。



つまり、それは企業に働く者が共通の目標のために貢献することであり、ただ企業の中にあって、自分勝手に動いているだけでは仕事とは言えないのです。ドラッカーは、共通の目標に貢献するためには、その活動は隙間なく、摩擦なく、重複なく1つの全体を生み出すように統合されなければならないといいます。



また、組織における共通の体験は共感を生み、それは連帯感につながります。リーダーさえも共通体験の輪に加われば、強い連帯感となります。紀元前218年、第二次ポエニ戦争が起こり、かのハンニバルは象を使ったアルプス越えという奇策でイタリアに侵入、ローマ軍を大いに苦しめました。ローマとの長年にわたる戦いは苛酷な体験でした。寒さも暑さも、ハンニバルは無言で耐えました。兵士のものと変わらない内容の食事も、時間が来たからというのではなく、空腹を覚えれば取りました。



彼が1人で処理しなければならない問題は絶えることはなかったので、休息をとるよりも問題を片付けることが常に優先しました。その彼には、夜や昼の区別さえなく、眠りも休息も、やわらかい寝床と静寂を意味することはなかったのです。
兵士たちにとっては、樹木が影をつくる地面にじかに兵士用のマントに身をくるんだだけで眠るハンニバルは、見慣れた光景になっていました。兵士たちは、そのそばを通るときは、武器の音だけはさせないように注意したといいます。決して打ちとけた感じではなく、厳しい態度を崩さなかったハンニバルでしたが、兵士たちは彼に大いなる共感を示したのです。



世界的な映画監督として知られた黒沢明は、セット撮影に入る前に、スタッフや出演者全員に必ず、濡れていない雑巾を持たせて、城の一部などの大道具をカラ拭きさせたといいます。もちろん、黒沢監督が先頭に立ち、主演のスターも、大部屋の役者も、大道具、小道具、録音、証明、カメラ、音楽など、とにかく映画製作に関わる人はすべてカラ拭きに動員されました。カラ拭きという共同作業によって、全員の気を揃え、名画を作るという共通の目標に全員を向かわせたのです。なお、「共」については、『龍馬とカエサル』(三五館)に詳しく書きました。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2015年6月29日 佐久間庸和