安岡正篤(6)


真に新しいものは、必ず古いものから生まれる




言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、陽明学者・安岡正篤の言葉です。安岡正篤は、「真に新しいものは、必ず古いものから生まれるのでありまして、突如として出るものではない」と語っています。


安岡正篤 活学一日一言 (致知一日一言シリーズ)

安岡正篤 活学一日一言 (致知一日一言シリーズ)


たとえば鎌倉時代新宗教ができたといっても、道元にしても、法然にしても、親鸞にしても、日蓮にしても、まったく何にもなかったところに初めて彼らの新仏教を開いたのではありません。現代の新興宗教にしろ、創価学会立正佼成会霊友会といった大手教団は日蓮宗系が多いですが、その日蓮宗とて最も古い経典である「法華経」から出ているのです。幕末維新の人物といっても、これまた徳川三百年の儒教、仏教、国学から出ています。真に伝統に立つことによって初めて、新しい何物かが生まれるのです。





安岡正篤はまた、古典、特に中国古典を読むことを人々に薦めました。中国古典の特徴を一言でいえば「実学」ということになる。実践の場で役に立つのです。
では、どういう点が実学だと言えるのでしょうか。
まず、応対辞令です。安岡は「中国古典は応対辞令の学問だ」と喝破しましたが、たしかにこのテーマが中国古典の大きなテーマになっています。応対辞令とは、社会生活のもろもろの場における人間関係にどう対処するか、という対処の仕方です。



第二は、経世済民です。つまり政治論で、これもまた中国古典が好んで取り上げる重要テーマですね。政治論といっても専門的でなく、組織をどう掌握(しょう あく)してどう動かすかなど、幅広い応用がきくものが多いのです。
第三は、修己治人です。つまりは指導者論で、上に立つ者はどうあるべきか、組織のリーダーにはどんな条件が望まれるのかを論じます。これもまた中国古典の得意とするテーマであり、『論語』をはじめ、あらゆる古典がさまざまな角度から指導者像を探っています。


[新装版]活眼 活学(PHP文庫)

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科学や技術がどんなに進歩しても、結局、それを動かすのは人間です。肝心の人間に対する理解を欠いてはなりません。また、時代の変化に応じて自分が変わっていこうとする姿勢は大切ですが、自分の心棒となるものは決して変えてはならないのです。心棒まで変えてしまうと、変化に流され、振り回されるだけです。心棒とは揺るぎのない価値観や考え方なのです。



明確な価値観や考え方があるからこそ、変化に適切に対応して、新しいものを生み出すことができます。こうした価値観や考え方を育てるために古典が役立つのです。ちなみに日産の経営再建を成功させたカルロス・ゴーン氏は、ギリシャ哲学に対する造詣が非常に深いとか。
なお、今回の安岡正篤の名言は『龍馬とカエサル』(三五館)にも登場します。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2014年5月6日 佐久間庸和