稲盛和夫(3)

真の勇気をもつ




言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、現代日本を代表する経営者である稲盛和夫氏の言葉です。
稲盛和夫氏は「経営の原点12ヶ条」を制定し、経営者に向けた心得をあらゆる機会に説いておられます。その条項のひとつに「真の勇気を持つ」という言葉があります。


松下幸之助と稲盛和夫―経営の神様の原点

松下幸之助と稲盛和夫―経営の神様の原点


「真の勇気を持つ」について、稲盛氏は次のように説明されています。
「全従業員の物心両面の幸せを守らなければならないリーダーは真の勇気を持っていなければなりません。同時に卑怯な振る舞いがあってはなりません。経営者は決してぼやいてはいけないのです。逆境であればなおさらです。たとえ虚勢であってもいいですからそこで踏ん張るのです。苦しいときには、誰だって勇気があるわけではありません。縮み上がって逃げていきたいようなときに踏みとどまるのを、『真の勇気』というのです」


論語 (岩波文庫 青202-1)

論語 (岩波文庫 青202-1)


孔子は『論語』の中で、彼がよく用いるスタイル、つまり否定によって命題を明らかにする方法で勇気を定義づけています。すなわち「義を見てせざるは勇なきなり」と。
これは、「勇気とは正しいことをすることである」と肯定的に言い換えることができます。
「正しいことをする」というのは、リーダーシップの基本でもあります。稲盛氏は、全従業員の物心両面の幸せを守らなければならないリーダーは真の勇気を持っていなければならないと述べておられます。
同時に、卑怯な振る舞いがあってはならない。仕事を進めていく中で、トップや上司に卑怯な振る舞いをする人がいると、その集団自体が混乱してしまいます。


経営者の集まりなどで、よくぼやく人がいます。しかし、従業員が誰も聞いていないところであっても、経営者は決してぼやいてはいけないと稲盛氏は語られています。
逆境の時であればなおさらで、たとえ虚勢であってもいいから、そこで踏ん張るのだと。苦しい時には、誰だって勇気があるわけがない。縮みあがって、逃げていきたいような時に踏みとどまるのを稲盛氏は「真の勇気」と呼んでいるのです。



会社の中にはいろいろの性格の従業員がいます。一見して豪傑肌の人、反対に怖がりで、弱々しい人。非常に繊細で、細やかな気配りのできる人、豪快だけれどもちょっと荒っぽい人と、実にさまざまです。そういう二通りの性格の人を見て、稲盛氏は若い頃にこう言ったといいます。「豪傑みたいな人は勇気があるように見えるけれど、あれは粗野なために勇気があるように見えるだけだ。本当の勇気を持っているわけではなく、蛮勇だ。うちの会社では、本当はびびり屋で気が小さくても、非常に繊細な人に仕事を通じて、場数を踏んで度胸をつけさせよう。そして、そんな人を登用していこう」


人間としての正しさ、良心に基づいた判断を実行するためには、勇気が必要となります。どんな誹謗中傷や妨害をも乗り越えて志を果たすためには、勇気が必要なのです。
リーダーが正しい判断を貫く勇気を失い、迷っていると、すぐに見抜かれる。いささかでも逃げるような卑怯な行為があると、部下との信頼関係は損なわれ、統率がとれなくなり、組織は機能しなくなってしまいます。
リーダーは勇将にならなければいけません。
勇将の下に弱卒なしは、人類普遍の真理なのです。
なお、今回の稲盛和夫氏の言葉は、『孔子とドラッカー新装版』(三五館)にも登場します。


孔子とドラッカー 新装版―ハートフル・マネジメント

孔子とドラッカー 新装版―ハートフル・マネジメント

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2013年10月13日 佐久間庸和