エマソン(3)


心から他人を助けようとすれば、
  自分自身を助けることにもなっている




言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、アメリカの思想家であるR・W・エマソンの言葉です。
エマソンは、「心から他人を助けようとすれば、自分自身を助けることにもなっているというのは、この人生における見事な補償作用である」と言いました。


エマソン入門―自然と一つになる哲学

エマソン入門―自然と一つになる哲学


与えるのが嬉しくて他人を助ける人にとって、その真の報酬とは喜びなのです。
他人に何かを与えて、自分が損をしたような気がする人は、まず自分自身に愛を与えていない人でしょう。常に自分に与えて、なおあり余るものを他人に与える。そして無条件に自分に与えていれば、いつだってそれはあり余るものなのです。



真の奉仕とは、助ける人、助けられる人が一つになるといいます。どちらも対等です。相手に助けさせてあげることで、自分も助けています。相手を助けることで、自分自身を助けることになっています。まさにこれは、与えること、受けることの最も理想的な円環構造と言えるでしょう。その輪の中で、どちらが与え、どちらが受け取っているのかわからなくなります。それはもう、1つの流れなのです。



わたしは、このエマソンの言葉に触れるたびに「ホスピタリティ」という言葉を連想します。集団意識や家族意識という強い絆を持つ原始社会においては、ホスピタリティを媒介とした人間関係が社会を構成する基本原理でした。しかし、社会的発展や技術的革新が達成された近代社会においては、ホスピタリティの意義は社会的なレベルから個人的な対人関係へと変ってきました。そして、テクノロジーが飛躍的に進歩し、物質文明が浸透するにともなって人間関係の基本的原則が揺らぎはじめている現代社会、特に先進資本主義国においては、ホスピタリティの概念が失われている場面を至る所で見ることができます。



グローバリズムの象徴ともされている某ハンバーガーショップ・チェーンのサービスに代表されるような、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」「お次の方どうぞ」といった具合に、心のないサービス・ロボットが顧客に演出しているとしか思えないマニュアル通りのサービスにホスピタリティは感じられません。
社会が成熟していくにつれ、人間関係は機能的な交換関係となり、相互関係によって結ばれた人間関係は失われていくのでしょうか。しかし、人間の本性には、そうした「人間性の退化」を自然に矯正する理性が備えられていると、わたしは思います。



ホスピタリティとよく間違えられるのが、サービスです。
「サービス」serviceの語源は、ラテン語のservus(奴隷)という言葉から生まれ、英語のslave(奴隷)、aervant(召し使い)、servitude(苦役)などに発展しています。
サービスにおいては、顧客が主人であって、サービスの提供者は従者というわけです。
ここでは上下関係がはっきりしており、従者は主人に服従し、主人のみが充足感を得ることになります。サービスの提供者は下男のように扱われるため、ほとんど満足を得ることはありません。サービスにおいては、奉仕する者と奉仕される者が常に上下関係、つまり「タテの関係」のなかに存在するのです。



これに対して、「ホスピタリティ」hospitalityの語源は、ラテン語のhospes(客人の保護者)に由来します。本来の意味は、巡礼者や旅人を寺院に泊めて手厚くもてなすという意味です。ここから派生して、長い年月をかけて英語のhospital(病院)、hospice(ホスピス)、hotel(ホテル)、host(ホスト)、hostess(ホステス)などが次々に生まれてきました。
こういった言葉からもわかるように、それらの施設や人を提供する側は、利用者に喜びを与え、それを自らの喜びとしています。
両者の立場は常に平等であり、その関係は「ヨコの関係」です。
ゲストとホストは、ともに相互信頼、共存共栄、共生の中に存在しているのです。



その意味で真の奉仕とは、サービスではなく、ホスピタリティのなかから生まれてくるものだと言えます。ここでいう奉仕とは、自分自身を大切にし、その上で他人のことも大切にしてあげたくなるといったものです。自分が愛や幸福感にあふれていたら、自然にそれを他人にも注ぎかけたくなります。「情けは人の為ならず」と日本でも言いますが、他人のためになることが自分のためにもなっているというのは、世界最大の公然の秘密の1つなのです。
なお、このエマソンの名言は『ハートフル・ソサエティ』および『ホスピタリティ・カンパニー』(ともに三五館)に登場します。


ハートフル・ソサエティ

ハートフル・ソサエティ

ホスピタリティ・カンパニー

ホスピタリティ・カンパニー

*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2013年9月7日 佐久間庸和