松下幸之助(5)


サービスとは、人に喜びを与えるということ




言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助の言葉です。
ある人が松下幸之助に、商売成功のコツを尋ねたことがあります。すると、松下は次のように答えたといいます。「私は、商売のコツの一つは、サービスに徹することにあると思っているが、このサービスとは、言葉をかえて言えば、人に喜びを与えるということである」と。


社員心得帖 (PHP文庫)

社員心得帖 (PHP文庫)


松下幸之助は、商売をしている者はもちろん、すべての人にとってサービス精神が求められると述べました。友人に対しても、自分の会社、商店、社会に対しても、大いにサービスする。国と国との間でも、サービスを怠る国は落伍する。落伍しないまでも、人気を落とす。廊下で会っても、ちょっと会釈して通るのがサービスであり、だからサービスというのは正しい礼儀でもあるというのです。このサービスを、費用はあまりかけずにできるだけ多くする。そこに商売の1つのコツがある。たとえば、笑顔でお客様に接するのです。これはお金もかからず、他人に喜びも与えられる格好のサービスです。そんな手近なところに、案外、商売の大切なコツがあるのではないかと松下幸之助は語っています。



また、松下幸之助は昭和34年5月、松下電器の高卒新入社員に対して「喜ばれる仕事」と題する訓話を行なっています。
そこには例として、アイスクリームをつくる家庭用の器具を販売する話が出てきます。松下の営業社員が「奥さん、これを使うと便利ですよ。おいしいアイスクリームができますよ」ということで1つ買ってもらいます。その器具を買った家庭では、夏の日にご主人が帰宅すると、奥さんが「お疲れさま!暑かったでしょう。冷たいものでもどうぞ」と言ってアイスクリームを出します。すると、ご主人は「うちのアイスクリームは外のよりもおいしいな」と言って喜びます。



そういう喜びを与えるために自分はこの器具を販売しているのだと思えばこそ、喜んで製品を勧めに行くわけです。そうすると売れる。売れたら自分も儲かる。そういうふうに物事を解釈することが大切であり、そうすると勧めに行くのもつらいと思わなくなると松下は高校を卒業したばかりの若い新入社員たちに説きました。
松下はまた、他の例もあげています。麻雀の道具をつくっている会社の人間が「麻雀をするのはよくないことだ」と思っていたら、その会社の経営はうまく行かないだろうと述べます。「麻雀は気分転換になる」「昼のあいだ一生懸命働いている人にとって晩にする一時間の麻雀は喜びになるだろう」「その喜びのためにわれわれは麻雀の道具をつくって売っているのだ」と思ってこそ、堂々とその仕事をやっていけるわけです。



さらに、松下幸之助は次のように言いました。「人々に喜びを与え、世の向上、発展を約束するのだと考えれば、勇気凛々として行くことができると思います。遠慮が先に立って、行くことができないということでは、人々に喜びを与えることはできません。会社の仕事というものは、どれもみなそういうことが言えるのではないでしょうか」と。



サービスというのは、本来相手を喜ばせるものであり、そして、またこちらにも喜びが生まれてくるものである。相手が喜んでくれれば自分も嬉しい。それは人間の自然な感情である。そういう喜び喜ばれる姿の中にこそ、真のサービスがあるのでしょう。わたしも、間違いなく、「喜び」は個人や会社の成功への入口であると思います。特に「喜び」はサービス業をマネジメントするうえで重要なコンセプトです。わが社もサービス業、それも冠婚葬祭やホテルといったホスピタリティ・サービス業ですが、いつも「喜び」について社員に話しています。
なお、この松下幸之助の名言は『孔子とドラッカー新装版』(三五館)にも登場します。


*よろしければ、「一条真也の新ハートフル・ブログ」もどうぞ。



2013年9月1日 佐久間庸和