安岡正篤(3)


人間に最も大切なものは「機」というものだ




言葉は、人の人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、陽明学者・安岡正篤の言葉です。首相をはじめとした多くの指導者を指導した安岡は、「人間に最も大切なものは『機』というものだ」と喝破しました。


安岡正篤一日一言

安岡正篤一日一言


人間のみならず、自然もすべて機に満ちています。
したがって人生とは、すべて機によって動いていると言ってもよいでしょう。
のんべんだらりとしたものではなくて、常にキビキビとした機の連続です。機というものはツボとか勘どころとかいうものであって、その1点ですべてに響くようなものです。そこで機を外すと動かない、つまり活きません。人間の身体もそういうツボや点で埋まっているわけです。



優れた物理学者たちは、シンギュラー・ポイントというものをよく知らなければならないといいます。シンギュラー・ポイントは「特異点」と訳され、現象の世界には常に伴うものです。例えば、水を沸かすとします。しばらくは何の変化も異常もありません。そのうちに湯気が立ったり、泡が出たりしますが、それだけのことで別に何のことはありません。
ところが、何のことはないと思って安心していると、それこそあっという間に急激に沸騰し始めます。いかにもその沸騰が当然起こったような気がするものですが、その沸騰点こそがシンギュラー・ポイントなのです。そして、「おや、煮えくり返っているぞ」と思っているうちに、異常なスピードでぐんぐん水が減っていって、時には噴き出したり、破裂したり、といった大異変が起こったりします。この沸騰してから後の半分のスピーデイな変化の推移をハーフ・ウェイといいます。



1本のタバコの吸殻が大きな山火事を起こすこともあれば、第一次世界大戦のように、セルビアの1人の青年がオーストリアの皇太子を傷つけたサラエボの一弾から大戦争が勃発したりします。人間というものは、シンギュラー・ポイントにならないと、意識しない、自覚しない、ちょうどガン患者と同じだと、安岡は嘆きます。
ガンというものは決して当然変異ではなく、時間をかけて来るものですが、誰もそれに気づきません。たまたま気がついても、それを打ち消して自分で自分を慰めます。心配して医者にかかっても、医者からガンだと指摘されることを本能的に避けて、「ガンではありません。心配ないですよ」と言ってくれる医者を探して歩きます。人間にはこのような心理がありますが、本当にガンが明らかになった時にはもう手遅れなのです。



マーケティングの第一機能は変化に気づくことですが、経営者は常に社会や会社のシンギュラー・ポイントに細心の注意を払い、命をつないで社員ともども生き残ることはもちろん、常に商機を活かさなければならないと思っています。
なお、この安岡正篤の名言は『龍馬とカエサル』(三五館)にも登場します。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

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2013年8月27日 佐久間庸和