石田梅岩(1)

正当な利益を取るのは商人の道である




言葉は、人生をも変えうる力を持っています。
今回の名言は、石門心学を開いた石田梅岩の言葉です。
梅岩は商人道徳を確立した人物として知られており、「正当な利益を取るのは商人の道である。利益を取らないのは商人の道ではない」という言葉を残しています。


石田梅岩のことば (サムライスピリット 4)

石田梅岩のことば (サムライスピリット 4)


利と義、つまり経済と道徳というものは両立する、と多くの先人たちが訴えてきました。
アリストテレスは「すべての商業は罪悪である」と言ったそうですが、商行為を詐欺の一種と見なすのは、古今東西を問わず、はるかに遠い昔からつい最近まで、あらゆるところに連綿と続いてきた考えだったのです。しかし、かの『国富論』の著者であり、近代経済学の生みの親でもあるアダム・スミスは、道徳と経済の一致を信じていました。
「神の見えざる手」というスミスの言葉はあまりにも有名ですが、彼は経済学者になる以前は道徳哲学者であり、『道徳感情論』という主著まであります。『論語』や『孟子』の西洋版をめざして書いたかのようなこの本を、スミス自身は世界的ベストセラーとなった『国富論』よりも重要視し、死の直前まで何度も改訂増補を加えました。
彼は、道徳と経済は両立すべきものであると死ぬまで信じ続けていたのです。


都鄙問答 (岩波文庫 青 11-1)

都鄙問答 (岩波文庫 青 11-1)


日本では、江戸時代に石田梅岩が現れて、「石門心学」を開きました。その集大成というべき主著『都鄙問答』には、ある人が「商人には貪欲の者が多く、利を貪ることを生業とする、これは詐欺にあらずや」と質問し、梅岩が答える場面が出てきます。梅岩は言います。商売の利益は、武士の俸禄に等しく、正当な利を得るのが商人の道である。これを詐欺というなら売買はできず、買う人は物に事欠いて、売る人は生活していけない。もし商人がみな農工を業とするなら、金銭を流通させる者がいなくなり、世の人々はみな困ってしまう。



士農工商の四民、いずれが欠けても、天下というものは成り立たない。商人の売買は天下のためなのだ。商人の利益は武士の俸禄、工人の作料、農民の年貢米を納めた残りの取り分とまったく変わらない。それをあなたは、売買の利ばかりを、欲心にて道なしと言い、商人を憎んで断絶しようとしている。なぜ、商人ばかりを賤しみ嫌うのか。日本においても中国においても、売買において利を得るのは、天下の定法である。定法の利を得て職分に努めれば、自然と社会の役に立つのである。それなのに、武士の士農工の収入については何も言わず、商人が収入を得るのを欲心と言い、道を知らない者というのはいかなることか。石門心学の教えは、商人には商人の道があることを教えるものである。



このように、現代から見ても梅岩の主張は見事なほどに正論です。
そして、当時ではきわめて革新的な「利」の哲学でした。
なお、今回の石田梅岩の名言は、『孔子とドラッカー新装版』(三五館)にも登場します。


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2013年8月4日 佐久間庸和